全 情 報

ID番号 06920
事件名 地位保全等仮処分命令申立事件
いわゆる事件名 積水ハウス事件
争点
事案概要  労働者が会社の従業員でありながら会社の業務と一部競合する業務を目的とするA社を設立・支配しそこから個人的利益を得ていたこと、土地の売買仲介にからんで土地所有者宅に押し掛け脅迫的な言辞を行ったこと等を理由として就業規則の懲戒解雇事由に当たるとして普通解雇され、その効力を争った事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
労働基準法89条1項9号
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 懲戒解雇事由に基づく普通解雇
裁判年月日 1997年3月28日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成6年 (ヨ) 3684 
裁判結果 却下
出典 労経速報1645号22頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-懲戒解雇事由に基づく普通解雇〕
 右の金員の授受は、A会社の名においてなされたとしても、同社は実質的に債権者によって支配されていることは前記認定のとおりであるから、右金員の授受は債権者個人においてなされたものと同視せざるを得ない。
 4 以上のとおりであって、債務者主張の懲戒解雇事由の一つである債権者がA会社の実質的支配を有しており、かつ、個人的利益を得ていたことが認められる。〔中略〕
 1 債務者は債権者がB所有の兵庫県伊丹市(略)所在の約一八〇〇坪の土地(以下「C土地」という)の売買仲介にからんで、B宅に押しかけて、同人に対し、脅迫的な言動をとったこと、及びマンションのディベロッパーであるD会社の担当者に対し、一五〇〇万円をA会社の銀行口座に支払うように要求したことが、就業規則に違反する旨主張し、債権者はこのような事実自体を否認している。
 2 証拠及び審尋の全趣旨によれば、次の事実が疎明される。
 (一) 債権者は、債務者の関連会社であるE不動産から、平成五年四月二三日、債務者の北大阪営業所において、開発許可を受けてマンションを建築するには様々な問題があるBの土地を商品化する話を持ちかけられた。右の問題とは、埋蔵文化財の発掘調査をしなければならないこと、関西電力の高圧線が近くにあること、農地転用しなければならないこと、その前提として地目の変更をしなければならないことなどであった。
 (二) 債権者は、C土地について買受先を求める情報を、F会社を通じて流し、G銀行本店、株式会社Hなどを経てD会社がこれに応じて買い受けることになった。この取引における債権者の活動は債務者の業務として行われたものである。
 (三) ところが、債権者は、D会社に対し、一五〇〇万円をA会社に対し支払うよう要求した。右金額は本来仲介手数料として請求し得る限度を超えている。D会社はこの時点では支払に応じなかった。
 (四) ところで、C土地の農地から雑種地への転用が困難との判断が債権者によって依頼された土地家屋調査士からなされていたため、債権者は平成五年内の契約はできないと考えていた。しかし、D会社らは、Bらの協力を得て独自に手続をし、同年一〇月二九日に地目を変更した上、同年一一月上旬には、BからD会社への売買契約を成立させた。
 (五) 債権者は、自らが排除されて勝手に契約されたことに激しく憤り、数回にわたってBら関係者に電話した。特に、Bに対しては強く非難して契約を取りやめるように申し入れた。
 (六) 債権者は、A会社名義で平成五年一一月九日、Bに対して内容証明郵便を発した。その内容は、A会社がC土地の媒介人の一人であることを前提に、「当社及びI株式会社を除外し最終的に実行したのは他ならぬ貴殿であるから実行加害者として責任は重大であります」とし、「当社の情報をもって契約し、利益を受けた貴殿に対し本来、本物件の不動産取引金額の3パーセントを報酬金として請求するべきところであるが、貴殿は実行加害者として当社に損害を与えておりますのでその額を損害金」として請求するものであった。さらに、債権者は、Bに対して、A会社名義で平成五年一二月三〇日にも同趣旨の内容証明郵便を送付した。
 以上の事実によれば、債権者は、本来、債務者の業務の一環として取り扱った西野土地に関する仲介案件について、自ら支配するA会社に対して法定額以上の仲介手数料を支払うように買主であるD会社に申し入れ、さらに右取引が自らの手から離れた形で完了してしまったとなるや今度は売主であるBに対して内容証明郵便を送付してA会社に損害金を支払うよう要求したものであることが明らかである。〔中略〕
 したがって、債務者が主張する債権者についての懲戒解雇事由を認めることができる。