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ID番号 06926
事件名 賃金等請求本訴事件/損害賠償請求反訴事件
いわゆる事件名 第一自動車工業事件
争点
事案概要  労働者が売掛金の一部を入金せず、それを糾された際にも誠実に対応しなかったことを理由として即時解雇され、その効力を争うとともに、会社が右労働者に対して入金しなかった金員相当額の損害賠償を請求して争った事例。
参照法条 労働基準法20条1項
民法709条
体系項目 解雇(民事) / 解雇予告手当 / 解雇予告手当請求権
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働者の損害賠償義務
裁判年月日 1997年3月21日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (ワ) 4435 
平成7年 (ワ) 6875 
裁判結果 一部認容,一部棄却
出典 労経速報1646号21頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇予告手当-解雇予告手当請求権〕
 (一) 被告は、原告に対し、原告が被告の経理を処理するにあたって、不正を疑わせる点があり、これに対する充分な説明をしなかったことを理由に、本件解雇を通告したのであるが、前記認定のとおり、原告は、昭和四六年ころから、取引先からの入金がありながら、被告の帳簿には、その全部または一部を記帳しないようになったうえ、Aの給与につき、賃金台帳と異なる金額を支給したり、Aの長男に対する架空の借受金やその返済を記帳したりするなど、本来の経理業務のあり方からはずれた不明朗かつ不実な取扱いをしていた。そして、Bが被告の経理に関与するようになり、原告の右のような経理処理上の不正を疑わせるような事実が発覚し、Aから、その説明を求められたにもかかわらず、原告は、充分な説明や資料の提出をすることもなかったばかりでなく、自宅に持ち帰った振替伝票等の会計書類も、なかなか持参しないなど、誠意ある対応をしなかったのである。
 (二) このように、原告は、実際に回収した金員の一部について、被告に入金処理をせず、また、そのことをAに糺された際にも、誠実に対応しなかったのであることに照らせば、原告は、自らの職務である経理業務につき、被告との労働契約の内容たる職務を果たしたということはできない。
 そして、被告は、原告の右のような態度を理由として、本件解雇を行ったのであるから、本件解雇は、原告の責に帰すべき事由に基づくものといわざるを得ない。〔中略〕
 (四) 以上の次第で、本件解雇は、即時解雇として有効であり、原告は、被告に対して、解雇予告手当ての請求権を有しないというべきである。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働者の損害賠償義務〕
 本件証拠上、右入金処理されなかった金員を原告が取得した事実を証明する直接的な証拠はないが、前記判示の事情や右金員が実際には回収されながら、被告に入金された形跡がないことに照らせば、原告が右金員を着服したといわれても仕方がないし、少なくとも、被告は、原告の前記行為によって、右金員相当の損害を被ったことは明らかといわなければならない。
 確かに、Aの対応は、本件の顕れた証拠をみる限りにおいては、経理関係の業務をすべて原告に任せきりにし、決算の確認や会計書類の点検も充分に行わないなど、会社の経営者としての資質や責任感に欠けるとの批判を免れない点が見受けられないではなく、Aが相応の注意を払っていれば、原告の権限逸脱行為のかなりの部分を阻止できたと思われるうえ、被告の被った損害もこれほどの額には至らなかったと考えられるのではあるが、このことから原告の責任が軽減されたり、否定されたりするものではない。
 (五) よって、原告は、不法行為に基づき、被告に対し、右原告が取引先から回収しながら被告に入金しなかった金員の合計一六二万八〇五五円相当の損害金を賠償すべき義務があるというべきである。