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ID番号 06947
事件名 懲戒処分無効確認等請求事件
いわゆる事件名 首都高速道路公団事件
争点
事案概要  労働者が在職中(定年退職前)に、被告首都高速道路公団が事業者となって実施することになっていた川崎縦貫道路建設工事につき批判的な新聞投書を行い、それにより会社の名誉が著しく毀損されたとしてなされた停職三か月の懲戒処分につきその無効確認等を請求した事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
労働基準法91条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 会社中傷・名誉毀損
懲戒・懲戒解雇 / 労基法91条の減給
裁判年月日 1997年5月22日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成1年 (ワ) 3761 
裁判結果 一部却下,一部棄却(控訴)
出典 労働判例718号17頁/労経速報1638号3頁
審級関係
評釈論文 福島淳・労働法律旬報1436号30~36頁1998年7月25日
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-会社中傷・名誉毀損〕
 従業員は、労働契約上の付随義務として、企業秩序を維持遵守すべき義務(誠実義務)を負い、使用者は広く秩序を維持し、もって企業の円滑な運営を図るために、その雇用する従業員の企業秩序違反行為を理由として、当該従業員に対し、一種の制裁罰である懲戒処分を行うことができる。そして、企業秩序の維持確保は、通常は、従業員の職場内または職務行為に関係のある行為を規制することにより達成し得るが、従業員の職場外でなされたその職務には関係のない行為であっても、企業の円滑な運営に支障をきたすおそれがあるなど、企業秩序の維持に関係を有すれば、従業員は労働契約上誠実義務を負う一方、使用者は企業秩序の維持確保のためにこのような行為をも規制の対象とし、これを理由として従業員に懲戒処分を行うことも許されると解される。
 したがって、本件投書のように、従業員が職場外で新聞に自己の見解を発表等することであっても、これによって企業の円滑な運営に支障をきたすおそれのあるなど、企業秩序の維持に関係を有するものであれば、例外的な場合を除き、従業員はこれを行わないようにする誠実義務を負う一方、使用者はその違反に対し企業秩序維持の観点から懲戒処分を行うことができる。そして、ここにいう例外的な場合とは、当該企業が違法行為等社会的に不相当な行為を秘かに行い、その従業員が内部で努力するも右状態が改善されない場合に、右従業員がやむなく監督官庁やマスコミ等に対し内部告発を行い、右状態の是正を行おうとする場合等をいうのであり、このような場合には右企業の利益に反することとなったとしても、公益を一企業の利益に優先させる見地から、その内容が真実であるか、あるいはその内容が真実ではないとしても相当な理由に基づくものであれば、右行為は正当行為として就業規則違反としてその責任を問うことは許されないというべきである。
〔懲戒・懲戒解雇-処分の量刑〕
 使用者は懲戒処分に当たって、いかなる処分を選択するかについては裁量を有するのであって、その処分が、動機、態様、損害の程度、使用者の業務に及ぼした影響等の諸事情に照らし、社会通念上妥当性を欠きその裁量を逸脱したと認められる場合に限って、懲戒権の濫用として違法となるものと解されるところ、本件投書によって、被告の業務の運営に対し前記のとおりの重大な支障が生じていることや、証拠(〈証拠・人証略〉及び弁論の全趣旨)によれば、原告は、従来から被告業務に関し投書行為を重ね、これに対し、被告が、口頭注意、文書による警告等を通じて自制を求めていたにもかかわらず、あえて本件投書行為を行っていることなどが認められるのであって、これらの本件における諸事情を総合考慮すれば、被告が原告に対し、停職三か月の懲戒処分を行ったことは、処分として必ずしも重きにすぎるとはいえず、その裁量を逸脱するものとはいえない。
〔懲戒・懲戒解雇-労基法91条の減給〕
 原告の主張のうち、労働基準法九一条違反をいう点については、停職に伴い特別手当の支給を受けられないことは、右給与規程に基づく理事長決裁によるものであって、就労した場合に通常の支給額以下の給与を支給することを定める減給の制裁に関する労働基準法九一条の規定の場合とは異なるから、理由がない。