全 情 報

ID番号 06952
事件名 地位保全等仮処分申立事件
いわゆる事件名 相模ハム事件
争点
事案概要  食肉加工品等の製造販売を全国的に行う会社で大阪営業所所長として勤務していた労働者に対して、役職定年後になされた神奈川県横浜市に本店を置く販売会社たる子会社への出向命令の効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法625条1項
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 出向命令権の根拠
裁判年月日 1997年6月5日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成9年 (ヨ) 891 
裁判結果 却下
出典 労働判例720号67頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-出向命令権の根拠〕
 本件出向命令について、債権者の個別的な同意がない点は当事者間に争いがないが、前記争いのない事実及び疎明資料(〈証拠略〉)によると、
 (一) 債権者は、昭和六三年三月、債務者に入社するに際し労働契約を締結し、就業規則その他の規則を遵守する旨を約束しているところ、当時(及び現在)の就業規則には、出向に関して詳細な定め(出向規程)がなされていること
 (二) 右出向規程によると、債務者における出向は、〔1〕社員を債務者の社員として在籍のまま関連会社または提携会社に派遣することを言い、〔2〕その間は債務者の総務部人事課に所属し、昇進・昇格・昇給は債務者の基準による、出向期間は原則として三年以内、勤務条件は、服務規律、休憩、出張取扱い等は出向先の定めによる、職位は出向先で定め、勤続年数は、債務者における勤続年数に通算し、年次有給休暇は出向時の残日数を出向先に引き継ぐ、〔3〕賃金・賞与は出向先の定めによるが、基本的には全額債務者本社から現行のものが支給される、退職金は、出向期間を通算し、債務者の基準で算出支給される、などとなっていることの各事実が一応認められ、これらに照らせば、本件は「出向」とは言っても、いわゆる「在籍出向」であって、内容的にも「配置転換」(個別的同意がないからと言って、直ちに無効であるとは通常考えられていない)と大差がなく、したがって、債権者の個別的同意がないとの一言をもって本件出向命令が無効であると解するのは相当ではない。
 また、包括的同意すらないとの点についても、債権者の稼動場所を大阪営業所に限る内容で労働契約が締結されたのであればともかく、そうでない以上、右のような詳細な出向規程を了承して雇用された債権者としては、出向につき包括的同意はしていると言うべきである。〔中略〕
〔配転・出向・転籍・派遣-出向命令権の根拠〕
 債権者は、管理職として採用されたものであり、右(3)の「複線型雇用管理制度」の施行こそ平成九年四月一日からであるが、債務者会社の規模などにも照らすと、もともと管理職にとって全国規模での配置転換・出向は特段不思議ではないこと(もっとも、役職定年者の中では、大阪から横浜への出向は、遠距離の部類に入るようではあるが、もともとその程度の異動はさしたるものではないと考えられる)、出向の必要性といっても、「当該出向先への異動が余人をもっては容易に替え難い」といった高度の必要性が要求されるわけではなく、労働力の適正配置、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限り、その必要性の存在を肯定できると考えるべきであることなどからすると、本件出向命令につき、その必要性は十分認めることができる。〔中略〕
 本件出向命令に対し、債権者の個別的同意はないが、そもそも出向に当たり、常に同意が必要であるとはいえないこと、出向を命ずるに当たり、出向の目的等の明示に欠けた点がなきにしもあらずであるが、その瑕疵は重大なものではないこと、本件出向命令に必要性・合理性があり、その本来の意図が債権者を退職させることにあるなどとは認めがたいこと、本件出向命令により債権者が被る不利益の程度は、補完措置等をも含めると、全体として重大とは認められないことなどを総合すると、本件出向命令は、到底人事権の濫用などとはいえず、有効であると言うべきである。