全 情 報

ID番号 07010
事件名 休職処分効力停止等仮処分申立事件
いわゆる事件名 全日本空輸事件
争点
事案概要  航空会社の機長が傷害罪で刑事訴追を受けたため使用者から休職に付され賃金の支給を受けられなかったとして、右休職の無効等を主張して休職の効力の仮の停止と賃金の仮払いを求めて争った事例(請求一部認容)。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法24条
体系項目 休職 / 起訴休職 / 休職制度の合理性
裁判年月日 1997年5月28日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 平成8年 (ヨ) 21256 
裁判結果 認容、一部却下
出典 時報1627号150頁/労働判例727号82頁/労経速報1658号24頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔休職-起訴休職-休職制度の合理性〕
 従業員が起訴されたとしても、必ずしも労務の給付が不可能になるわけではなく、有罪判決が確定するまでは無罪の推定を受けるわけであるから、右規則を理由に起訴された従業員を債務者が自由に休職に付すことが出来るものではなく、これには合理的制約が存すると言うべきである。そして具体的には、起訴された従業員が引き続き就労することによって、債務者の対外的信用が失墜し、又は職場秩序の維持に障害が生ずるおそれがある場合、あるいは当該従業員の労務の継続的な給付や企業活動の円滑な遂行に障害が生ずるおそれがある場合でなければならず、更に休職によって被る従業員の不利益の程度(休職期間、賃金支給の有無等)が起訴の対象となった事柄が真実であった場合に行われる可能性のある懲戒処分の内容と比較して明らかに均衡を欠く場合ではないことを要し、一旦休職に付されたとしても、これらの要件を欠くに至った場合には復職させる必要があると言うべきである。債務者の起訴休職に関する定めは、右のように解する限りにおいて効力を有するというべきであり、これらの要件を欠いているのにもかかわらず起訴休職に付した場合には、使用者の責に帰すべき事由による履行不能として、従業員は反対給付である賃金請求権を失わないものと認められる。〔中略〕
 債権者の無給の休職が右時点で既に一一か月に及んでいる点は、本件刑事事件の有罪が確定した場合に債権者が付される可能性のある懲戒処分の内容(右認定の諸事情を考慮すると解雇は濫用とされる可能性が高く、他の懲戒処分の内容も、降転職は賃金が支給されるものであるし、出勤停止も一週間を限度としており、減給も賃金締切期間分の一〇分の一を超えないことになっている)と比較して、著しく均衡を欠いているというべきである。
 したがって、少なくとも平成九年四月の時点で、なお債務者が債権者を無給の休職に付していたことは、その合理的根拠を欠くものであるから、債権者は少なくとも右の時期以降、賃金請求権を失わないものと認められる。