全 情 報

ID番号 07027
事件名 損害賠償請求控訴事件
いわゆる事件名 石川トナミ運輸事件
争点
事案概要  運送会社が保管中の浄化槽上での作業中に、運送会社の倉庫係の労働者が、蓋がされていなかった浄化槽から内部に転落して死亡したケースで、遺族が会社に対して安全配慮義務違反を理由に損害賠償を求めた事例(一部認容)。
参照法条 民法415条
労働基準法89条1項8号
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 労災上積み補償・特別補償協定
裁判年月日 1997年9月26日
裁判所名 金沢地
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (レ) 8 
裁判結果 認容、一部棄却
出典 労働判例727号59頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 控訴人は、浄化槽の上に昇って蓋をせざるを得ない状況にあったのであるが、(証拠略)、控訴人本人の供述(原審及び当審)によれば、浄化槽の形状及び材質は足を滑らせ易いものであること、蓋の重量が約五キログラムないし七・五キログラムあって、これを携帯しての浄化槽上での作業はバランスを崩すおそれが多分にあることが認められ、したがって、この作業には相当程度の危険があったというべきであり、このような作業が行われていたことを容易に知りうる状況にあった被控訴人としては、その危険性を除去すべく、倉庫内の浄化槽用スペースを拡張し、それが困難であれば、浄化槽の上に昇っての作業を極力避けるように控訴人に指示すると共に、他の倉庫係に浄化槽の搬入作業を手伝うように指示し、あるいは、搬入を担当するトラックの運転手らにはずした浄化槽の蓋は、搬出の際取り出し易い場所に積み込むように指示するなどの処置を採って控訴人が浄化槽の上に昇らずに作業できるように配慮すべき雇用契約上の義務を負っていたと解される。
 したがって、それらの処置をいずれも採らなかった被控訴人の不作為は、雇用契約上の安全配慮義務に違反していたということができ、本件事故は、被控訴人の右義務違反という債務不履行によって生じたものというべきである。〔中略〕
 本件事故について、控訴人は、その作業の危険性について認識しながら浄化槽の蓋が足りないことに気づき、係りの者にそのことを伝えることに気を取られて、足下の安全確認を怠った過失が認められるところ(控訴人本人)、控訴人は、被控訴人の債務不履行により前記のとおり危険な状況における作業を迅速に行わなければならない立場にあったことを考慮すると、その相殺すべき過失割合は、一割を相当とする。
 よって過失相殺後の総損害は、一〇三万七四円である。〔中略〕
〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-労災上積み補償〕
 本件事故は業務上の事故であり、労働基準監督署の認定による休業補償給付がされた日数は合計八〇日間であり(〈証拠略〉)、被控訴人の障害特別見舞金規程第三条によれば、金八万円の特別見舞金が支給されるべきところ、被控訴人は、同規程六条による不支給の決定が適法に行われているから、その支給義務を負わないと主張している。
 検討するに、右規程六条は、第二条の定にも関わらずその金額の全部又は一部を支給しないことがあると定めているに過ぎないから、同規程第三条による特別見舞金についても適用があるとはその文理上解されない。また、仮に同規程第六条が同規程第三条による特別見舞金についても適用があると解されるにしても、本件事故における控訴人の蓋が足りないことに気づいて係りの者にそれを伝えることに気を取られて、自己の足下の安全確認を怠ったという過失は、前記のとおり控訴人(ママ)の安全配慮義務違反により危険な状態における作業に従事していた際のものであること及び控訴人は本件事故発生時に作業を急いで行うことが要請される立場にあったことに照らすと、重大な過失とはいえないから、本件は同規程第六条の定める場合には該当しない。
 よって、その余の点について判断するまでもなく、上記被控訴人の主張は失当であって、被控訴人は控訴人に対し、特別見舞金として金八万円の支払義務がある。