全 情 報

ID番号 07059
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 日鐵商事事件
争点
事案概要  転籍に際して退職願いを提出した従業員が、転籍後も同額の年収が保障されるとの人事担当者からの説明を受けていたにもかかわらず、現実に支給されたのは七割の額であって、退職には要素の錯誤があり無効である等として、転籍元会社に対して地位確認等の請求をした事例(請求棄却)。
参照法条 民法95条
民法709条
労働基準法2章
体系項目 退職 / 退職願 / 退職願と錯誤
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 1997年12月16日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (ワ) 7766 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例730号26頁/労経速報1657号15頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔退職-退職願-退職願と錯誤〕
 本件退職願の提出は、平成三年四月一日の就業規則の改正以来四半期末期ごとに、出向中の従業員について五五歳到達後その全員に対し転籍を実行し、その際、給料については、五五歳時点での七割程度とする旨の、前記のとおりの被告の人事制度の一環として行われたものであり、また、本件全証拠に照らしても、被告において、原告のみに対し、その例外を認める必要性・許容性を認めがたいことなど、前記認定の諸事情等をも併せ考慮すれば、原告主張を認めるに足る証拠のない本件においては、結局のところ、被告在職時の年収を被告が保障した旨の原告主張の事実はこれを認めることができない。
 してみれば、原告に仮に錯誤があったとしても、その動機が表示されたとはいえない本件においては、要素の錯誤があったとは認めることができない。〔中略〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 原告は、有効にA会社へ転籍しており、本件全証拠に照らしても、被告の対応につき違法・過失があったとは認められない。
 原告は、被告はA会社と十分な連絡をとらずに、原告に対し、退職当時の給与が保障されるとの未確定な事実を申し向け、原告に退職の意思表示をさせた旨主張するが、被告は転籍に伴う諸手続を行っており、また、前記のとおり、原告に対し、被告在職時の給与を保障したとの事実も認めることができないから、原告の右主張は採用できない。
 確かに、A会社は、平成四年七月ころから、被告に対し、被告で原告を引きとって欲しい旨申し出ていることが認められ、同年一一月以降原告の就労を拒否し、賃金の支払を拒否していることは原告主張のとおりであるが、前記の事実によれば、A会社においても、平成四年七月に勤務態度不良を理由に被告に対し引きとりを要請する以前は、原告を転籍してきた者として取り扱っており、被告・A会社間において、原告の従業員たる地位の取扱について差異が生じているとはいえないし、また、そもそも、A会社の前記のとおりの対応は同社の判断に基づくものであるから、A会社の前記対応をもって、被告の不法行為と評価することはできない。