全 情 報

ID番号 07067
事件名 地位保全等仮処分命令申立事件
いわゆる事件名 興和株式会社事件
争点
事案概要  業務請負契約に基づき、自社の従業員を派遣先会社に運転手として派遣していた会社が、右業務請負契約の解約に伴い業務を縮小せざるを得ないことを理由に従業員八名を解雇したのに対して、解雇された従業員一名が地位保全等の仮処分を申し立てた事例(認容、一部却下)。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
解雇(民事) / 整理解雇 / 協議説得義務
裁判年月日 1998年1月5日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成9年 (ヨ) 2639 
裁判結果 一部認容,一部却下
出典 労働判例732号49頁/労経速報1673号3頁
審級関係
評釈論文 吉田肇・民商法雑誌123巻1号130~139頁2000年10月
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 整理解雇が有効であるためには、解雇の必要性、解雇回避の努力、被解雇者の選定の合理性及び被解雇者に対する説明の四要件を充足していることが必要であると解され、債権者はその全ての点について争っているので、以下、本件解雇について右各要件が具備しているかどうかを検討する。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
 本件解雇は、業務縮小の結果引き続き雇用していくことが経営上困難となったために行われたものであって、解雇の必要性は認められる。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 債務者は、車両運行部の業務縮小に対応して、派遣打ち切りによって余剰人員となる者について他の事業部門への配置転換も検討したものの、他の事業部門においても業務縮小が行われており、また保険関係の業務のように資格や知識経験を要する事業部門もあるため、配置転換により解雇を回避することはできなかったことが認められる。
 しかし、後記五のとおり、債務者が被解雇者に対して解雇に至った経過を説明したのは解雇予告の際が初めてであると認められるから、希望退職者を募集したことはないと推認されるところ、A銀行の解約申入れから本件解雇に至るまでには相当の期間があったことは前記二のとおりであり、この間後記四のとおり担当支店を異動させたうえで派遣運転手として残留させた場合もあることからすれば、異動に伴う通勤の便宜から退職を希望する者があった可能性もあり、また、A銀行への派遣運転手で残留した者は一〇名(役員車担当四名及び支店長車担当六名)であるのに対し、解雇予告を行った者が八名であることを考慮すれば、債務者は解雇に先立って希望退職者を募集すべきであったと解される。
 したがって、この点において、債務者は解雇回避の努力を尽くさなかったということができる。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇基準〕
 1 債務者は、被解雇者の選定基準について、当初、平成九年一〇月三〇日付準備書面第二の一の3において、解雇対象となった従業員は、余剰人員となった支店長車の運転手全員であり、このうち定年を迎えた者や嘱託期間が満了した者を除く一〇名のうち、大型免許を有する者一名及び成績優秀の者一名を除いた八名全員を解雇した旨主張していたが、解雇されないで残留した者については右基準によって説明することができないことが明らかとなり、平成九年一二月八日付準備書面第一(添付の経過表を含む。)において、被解雇者は、原則として廃止される車の運転手であると主張を訂正するに至った。
 整理解雇の重要な要件である被解雇者の選定基準について、右のように大きな主張の訂正が行われるということは、選定基準の存在に疑義を生じさせるものである。
 2 のみならず、右訂正後の被解雇者の選定基準を検討するに、右基準に従ったといえるのか明らかでない点が認められる。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-協議説得義務〕
 債務者は、債権者を含む各被解雇者に対して解雇予告の際に解雇に至った経過を説明しており、債権者に対しては、平成九年八月一八日に説明したことが認められるが、説明は解雇予告に重点があり、説明の内容が十分であったとは認められない。
 また、整理解雇せざるを得ない状況にあることが解雇予告より相当期間前から明らかである場合には、再就職先の確保等の必要からできるだけ早期に説明すべきであり、本件では、解雇予告の以前から解雇予定者及びその者に対する解雇予告の日が予定されていたことが窺われるから、解雇予告の以前に被解雇者に経過を説明すべき義務があったが、それが適時にされたとはいえない。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 以上の次第で、本件解雇は整理解雇の要件を充足しておらず、就業規則第三四条第三号に該当するとはいえないから、本件解雇は無効である。