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ID番号 07095
事件名 費用返還請求本訴 不当利得返還等請求反訴事件
いわゆる事件名 富士重工業事件
争点
事案概要  会社の海外研修員派遣制度によってアメリカに派遣された元従業員が帰国後間もなく退職し、会社から当事者間で締結した五年以内に退職した場合には派遣費用を返済する旨の合意に基づき返済を請求されたのに対して、右合意は労働基準法一六条に違反するとして争ったケースで、返済請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法16条
体系項目 労働契約(民事) / 賠償予定
裁判年月日 1998年3月17日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (ワ) 11892 
平成9年 (ワ) 19073 
裁判結果 棄却、一部認容・一部棄却(確定)
出典 労働判例734号15頁/労経速報1667号29頁
審級関係
評釈論文 菊池高志・法政研究〔九州大学〕65巻2号335~344頁1998年10月/香川孝三・ジュリスト1147号132~134頁1998年12月15日/川田知子・労働判例766号15~24頁1999年11月1日/梅本圭一郎・平成10年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊1005〕326頁1999年9月/野口恵三・NBL657号80~83頁1999年1月15日
判決理由 〔労働契約-賠償予定〕
 右認定事実によれば、本件派遣前に、原告と被告Y1との間で、被告Y1が研修終了後五年以内に退職したときは、原告に対し派遣費用を返済するとの合意が成立していたことが認められる。しかし、被告Y1は、自分の意思で海外研修員に応募したとはいえ、前記認定事実によれば、本件研修は、原告の関連企業において業務に従事することにより、原告の業務遂行に役立つ語学力や海外での業務遂行能力を向上させるというものであって、その実態は社員教育の一態様であるともいえるうえ、被告Y2の派遣先はA本社とされ、研修期間中に原告の業務にも従事していたのであるから、その派遣費用は業務遂行のための費用として、本来原告が負担すべきものであり、被告Y1に負担の義務はないというべきである。そうすると、右合意の実質は、労働者が約定期間前に退職した場合の違約金の定めに当たり、労基法一六条に違反し無効であるというべきである。
 原告は、本件規則第一二条の文言は「返済させることがある」であり、返済を強制する根拠条文にはならず、被告らの原告に対する本件派遣費用返済義務は、本件合意締結までは、何ら法的、確定的な義務ではなかった旨主張する。しかし、右第一二条が、原告が派遣費用の返済を請求した場合には、研修員に返済義務があるという意味であることはその文言自体からも明らかであるし、前記認定事実によれば、原告も、研修員が研修終了後五年以内に退職したときは派遣費用を返済する義務があることを前提に、派遣前の研修員に右義務の説明をしたり、退職した研修員に返済を請求していたことが認められ、原告の右主張は採用できない。