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ID番号 07098
事件名 損害賠償請求(本訴・反訴)事件
いわゆる事件名 真言宗寺院セクハラ事件
争点
事案概要  お寺に勤務していた女性職員が寺の代表役員から性的な身体的接触を受けるなど、セクシュアルハラスメントを受けたとして、損害賠償を請求し、他方、寺院側が、反訴として、いわれなき批判を受けて名誉を侵害されたとして謝罪広告及び損害賠償を求めていたケースで、本訴請求、反訴請求のいずれも棄却された事例。
参照法条 民法44条
民法709条
民法710条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / セクシャル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント
裁判年月日 1998年3月20日
裁判所名 京都地
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (ワ) 522 
平成8年 (ワ) 988 
裁判結果 棄却(確定)
出典 時報1658号155頁
審級関係
評釈論文 小川幸士・私法判例リマークス〔20〕<2000〔上〕>62~65頁2000年2月
判決理由 〔労基法の基本原則-均等待遇-セクシャル・ハラスメント〕
 被告Yは、筆を洗い場で洗っている時に、近くにいた原告ら女性職員に対し、「筆下ろし」などと言いながら、筆先で肘から手首あたりを触ったりしたことが数回程度あり、Aから「先生やめとき」と一度注意されたことがあること、被告Yは、原告の肩を一回か二回程度、「お加持やで」(触るとお陰があるという意味)と言いながら触ったりしたことについては、認めることができる(被告Yも、これらの事実は概ね認める旨の供述をしている。)。
 2 しかし、こうした行為は、その行為がされた状況や行為態様等からすると、社会的にみて許容される範囲を逸脱しているということはできないのであって、違法な行為とはいえない。そして、本件全証拠によっても、他に不法行為に該当する事実は認定できない。〔中略〕
 被告らは、原告において、被告らの不法行為が存在しないのに、損害賠償の訴えを提起し、かつ、記者会見をしたことが、被告らの社会的名誉を著しく毀損した旨を主張する。
 2 訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当であるところ(最高裁昭和六三年一月二六日判決・民集四二巻一号一頁参照)、本件では、被告Yの不法行為が認定できないことは既に述べたとおりであるが、被告Yにおいて、社会的にみて許容される範囲を逸脱しているものではないとはいえ、筆先で原告ら女性職員の肘から手首あたりを触ったりするなどしたことは、前記認定のとおりであり、本訴請求の訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くとは認められない。
 また、記者会見の点についても、《証拠略》によると、本訴請求について訴えを提起したという内容の記者会見をしたというものであり、訴えの提起が違法とはいえない以上、記者会見をしたことが違法となるものではない。
 3 よって、被告らの反訴請求は、いずれも理由がない。