全 情 報

ID番号 07143
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 日本貨物鉄道事件
争点
事案概要  いわゆる手待時間の労働時間性、報酬性が認められた事例。
 仮眠時間を含む休憩時間について、使用者が必要に応じて労務を遂行すべき義務を課し、場所的に拘束するなど、使用者の指揮命令下に置いているときは、労働時間に当たるとされた事例。
 附加金の請求につき、使用者が労働基準法三七条違反になることを認識していなかったとして、その支払が棄却された事例。
参照法条 労働基準法32条
労働基準法34条
労働基準法37条
労働基準法114条
体系項目 労働時間(民事) / 労働時間の概念 / 手待時間
労働時間(民事) / 労働時間の概念 / 仮眠時間
雑則(民事) / 附加金
裁判年月日 1998年6月12日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成5年 (ワ) 24103 
平成6年 (ワ) 11539 
裁判結果 一部認容、一部棄却(確定)
出典 時報1655号170頁/労働判例745号16頁/労経速報1678号3頁
審級関係
評釈論文 原俊之・労働法律旬報1454号15~21頁1999年4月25日/砂押以久子・労働判例754号7~16頁1999年4月15日/石川恭司・平成11年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊1036〕368~369頁2000年9月
判決理由 〔労働時間-労働時間の概念-手待時間〕
 1 一般に、作業と作業との間の待機時間である手待時間が賃金支払の対象となるのは、手待時間においては、労働者は、労働契約に基づき、使用者の指示を受け次第、労務を遂行すべき職務上の義務を負っており、適時にこの義務を履行することができるようにするために、場所的に拘束される等使用者の指揮命令下に置かれて労務の提供を継続しているからである。労働者は、右のとおり使用者の指示を受け次第、労務を遂行すべき職務上の義務を履行することができるようにするために、場所的に拘束される等使用者の指揮命令下に置かれて労務の提供を継続しているのであるから、実際に労務を遂行しなくても賃金の支払を受けてしかるべきであり、他方、使用者は、実際には労務を遂行すべき指示を出すに至らなかったとしても、右のとおり労働契約に基づき労働者を待機させておくことによって労働力を確保しているのであるから、労務の対価である賃金を支払ってしかるべきである。手待時間の労働時間性、有償性を肯定する理由はここにある。
〔労働時間-労働時間の概念-仮眠時間〕
 労働基準法三四条に規定する休憩時間については、使用者は、労働者にこれを自由に利用させなければならないのであり(同条三項)、必要が生じた場合に限るにしても、労働者に労務を遂行すべき職務上の義務を課してはならない。このように、労働者が、労務を遂行すべき職務上の義務を負っていない休憩時間は、労働時間に当たらず、賃金支払の対象とならない。仮に、外出を許可制とする等の場所的拘束性があっても、使用者が労働者に右のような職務上の義務を課していないのであれば、同条に規定する休憩時間に当たり得るものと解される。使用者が労働者に右のような職務上の義務を課していないのであれば、労働者が休憩時間中に自発的に労務に相当する活動を行っても、当該休憩時間全部が手待時間となるものではない。ただし、右労務の遂行が時間外手当の支払の対象となることはあり得る。
 これに対し、使用者が労働者に対し、使用者が個別に指示した場合又は通常の業務遂行の範囲内で生じることが想定される事態であらかじめ使用者の定めたものが生じた場合に、労務を遂行しなければならない職務上の義務を課し、適時にこの義務を履行することができるようにするために、場所的に拘束する等使用者の指揮命令下に置いているときは、就業規則上は休憩時間であっても、労働基準法三四条に規定する休憩時間とはいえず、全体として労働時間に当たるものと解するのが相当である。ただし、使用者が労働者に対し、同法三三条一項所定の災害その他避けることのできない事由によって臨時の必要がある場合に労務を遂行しなければならない職務上の義務を課したとしても、それが文字どおり例外的な場合にとどまるものであるならば、使用者が右労務遂行のために労働者を指揮命令下に置いて労働力を確保しているということができないから、当該休憩時間は労働時間に当たるものではないと解するのが相当である。〔中略〕
〔雑則-附加金〕
 2 原告は、労働基準法一一四条に基づく付加金の支払を請求するが、同条によれば、付加金は制裁としての性質を有するものであり、裁判所は付加金を命ずることが不相当であると判断した場合にはこれを命じないことができるものと解するのが相当である。本件各休憩時間のような休憩時間、仮眠時間の労働時間性が裁判において争われ、正面から肯定された事例が生じたのは比較的最近であり、弁論の全趣旨によれば、本件訴訟も、そのような事例が生じたことを契機として提起されるに至ったことが認められるのであって、このような事情をも併せて考えると、被告は、裁判所の判断により解決することを要する問題について判断を誤っていたために、同法三七条に違反することとなることを認識していなかったものと認めることができる。被告が同法三七条に違反することを認識していなかったことが、同法一一四条に基づく付加金の支払を命ずることの障害になるわけではないとしても、付加金の支払を命ずるか否かの判断には考慮することができ、この点を考慮すると、本件において付加金の支払を命ずることは相当ではないと考えられ、付加金の支払は命じないこととした。