全 情 報

ID番号 07162
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 オーク事件
争点
事案概要  募集広告における固定給として月給金四〇万円と記載されていたこと等により、本件給与は「日給月給制」ではなく「月給制」と判断されるが、月の中途に入社、退社した場合には、相当額を控除できるとされた事例。
 勤務時間後の店内後片づけや深夜業を含めて月給四〇万円と合意していたとされた事例。
 研修手当一万円支給という合意があったとして、研修手当請求権が認容された事例。
参照法条 労働基準法15条
労働基準法24条1項
体系項目 労働契約(民事) / 労働条件明示
賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 賃金の計算方法
賃金(民事) / 割増賃金 / 支払い義務
裁判年月日 1998年7月27日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 130 
裁判結果 一部認容、一部棄却(確定)
出典 労働判例748号91頁/労経速報1688号9頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働条件明示〕
〔賃金-賃金請求権の発生-賃金の計算方法〕
 被告の募集広告には固定給として月給金四〇万円を支払うという記載があったこと(前記第三の一1(一))、被告の採用面接の担当者は原告に対し固定給として月給金四〇万円を支払うという説明をしたこと(前記第三の一1(二))、原告の一〇月分の賃金の支給対象となる出勤日数は二五日であるのに対し、一一月分の賃金の支給対象となる出勤日数は二七日であるから、原告の賃金が日給金一万六四〇〇円であるとすると、一〇月分の賃金は金四一万円、一一月分の賃金は四四万二八〇〇円となるはずであるが、被告の賃金台帳では原告の一〇月分の賃金及び一一月分の賃金はいずれも金四一万円であること(前記第三の一1(四))、被告の賃金台帳では右の金四一万円は基本給とされていること(前記第三の一1(四))、これらの事実を総合すれば、原告の賃金が原告の主張するような日給月給制であると認めることはできない。
 (三) ところで、原告は月の中途に入社して月の中途で退社しているから、いわゆる月給制である原告の賃金においては月の中途で入社又は退社した場合の賃金の計算方法がどのようになるかが問題となる。
 (1)ア 原告は、原告の賃金の計算においては月の中途で入社又は退社した場合でも一か月分の賃金の全額が支払われると主張する。
 イ しかし、仮に月の中途に入社又は退社した従業員について一か月分の賃金の全額が支給されるべきであるとすると、その従業員は入社又は退社した月の所定労働日の全部について労務を提供しなかったにもかかわらず一か月分の賃金が支払われることになるが、それはいわゆるノーワーク・ノーペイの原則(労働者が労働をしなかった場合にはその労働しなかった時間に対応する賃金は支払われないという原則)の例外をなすことになるから、月の中途に入社又は退社した従業員について一か月分の賃金の全額が支給されるべきであるといえるのは、労働者が使用者との間で月の中途に入社又は退社した場合でも一か月分の賃金の全額を支払うことを合意した場合に限られると解するのが相当である。
 ところで、原告と被告は本件契約の締結の際に原告に固定給として一か月当たり金四〇万円を支払うことを合意しているが、原告の賃金が固定給であることを合意したというだけでは月の中途に入社又は退社した場合でも一か月分の賃金の全額を支払うことを合意したということはできない。かえって原告と被告は本件契約において被告の原告に対する賃金の支払は二〇日締めの月末払いであることを合意しており、これによれば、原告の一か月当たりの賃金の計算に当たっては原告が現実に何日稼働したかを勘案して原告の具体的な賃金額を決定することとされていたものと考えられる。そして、本件においては他に原告と被告が原告の賃金の計算において月の中途に入社又は退社した場合でも一か月分の賃金の全額を支払うことを合意したことを認めるに足りる証拠はない。
 ウ そうすると、原告と被告が本件契約の締結の際に原告の賃金の計算において月の中途に入社又は退社した場合でも一か月分の賃金の全額を支払うことを合意したと認めることはできない。
〔賃金-割増賃金-支払い義務〕
 被告は勤務時間終了後の残業については原告の一か月当たりの賃金四〇万円に含まれていると主張していること、原告は採用面接の際に勤務時間は午前二時までであるが、営業時間の終了後に店内の後片付けもしてもらうことになるという説明を受けたが、面接の担当者から営業時間の終了後の後片付けについて残業代を支払うという説明はなく、また、原告も面接の担当者による説明に対し更に説明を求めたり異議を述べたりすることはなかったこと(前記第三の一1(二))、原告の入社した日と同じ日に被告に入社したAは採用面接の際に一か月の賃金が金四〇万円であるという説明を受けてウエイターの仕事にしては賃金が高いと思ったこと(前記第三の一1(三))、原告はその本人尋問において残業の時間を手帳に書き留めるようになったのは被告に入社してから二か月くらいしてからで、被告が倒産するのではないかという不安をもったことによるという趣旨の供述をしており、この供述によれば、原告は被告に入社してから二か月が経過するまでは残業時間を書き留めようと考えたことがなく、ましてや残業代の支払を求めたこともないといえること、以上のほか、原告の勤務時間内における午後一〇時以降の深夜の割増賃金については原告の一か月当たりの賃金に含めることを合意したものと認められることも加えて総合考慮すれば、原告と被告は本件契約の締結の際に勤務時間後の店内の後片付けに対する時間外及び深夜の割増賃金をも含めて原告の一か月当たりの賃金を金四〇万円(ただし、所得税などの控除前の金額)とすることを合意したものと認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない(なお、後片付けに要する時間は毎日おおむね決まった時間であると考えられるから、その時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金分をも含めた賃金の合意をすることは労働基準法三七条に違反するものではないと解される。)。
 (5) 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、被告が原告に対し未払残業代の支払義務を負っているということはできない。〔中略〕
〔労働時間-時間外・休日労働〕
 被告が行った研修とは、要するに、被告の経営に係る店舗で勤務するに当たって備えていなければならない知識や接客態度などを身につけさせることを目的として行われたものと考えられるところ、そうであるとすれば、研修に参加した者は被告の従業員に準じる者としてこれに研修に参加したことに対する手当を支給するということも十分あり得るものといえること、原告の入社当時の一日当たりの賃金は金一万六〇〇〇円である(前記第三の一2(三)(2)イ)のに対し、原告の主張に係る研修手当は一日当たり金一万円であり、ウエイターという原告の勤務の内容と研修の日程や内容などを対比すれば、一日当たり金一万円という金額の研修手当は決して非常識な金額とはいえないこと、以上のほか、前記第三の二1の原告の供述及び(人証略)の証言も考え合わせれば、原告は被告との間で研修に参加すれば一日当たり金一万円を支払うことを約したと認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。
 3 以上によれば、被告は原告に対し研修手当として金五万円の支払義務を負っているというべきである。