全 情 報

ID番号 07163
事件名 解雇無効確認等請求事件
いわゆる事件名 山本香料事件
争点
事案概要  解雇事由の一つ一つをとって解雇事由とするにはいずれもいささか小さな事実にすぎないが、上司への反抗的態度、過激な言辞を発してその指示に素直に従わないことを総じてみれば、職場の秩序を乱すもので解雇権の濫用にも当たらず有効とされた事例。
 セクシュアルハラスメントを理由とする損害賠償請求につき、それを裏付けるに足りる証拠がないとして棄却された事例。
 賞与の支払額につき、それが年額で決められ、計算方法に特段の合意がないことから、年度途中で退職した場合には、勤務した日数により按分するのが相当とされた事例。
 被解雇者に対する、マンションの使用貸借契約の満了を理由とする明渡請求が認容された事例。
参照法条 民法1条3項
民法593条
民法710条
労働基準法24条1項
労働基準法89条1項2号
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / セクシャル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント
賃金(民事) / 賞与・ボーナス・一時金 / 賞与請求権
解雇(民事) / 解雇事由 / 上司反抗
解雇(民事) / 解雇権の濫用
寄宿舎・社宅(民事) / 社宅の使用関係
寄宿舎・社宅(民事) / 寄宿舎・社宅の利用 / 被解雇者・退職者の退去義務・退寮処分
裁判年月日 1998年7月29日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (ワ) 8018 
平成7年 (ワ) 11925 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例749号26頁/労経速報1686号27頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-上司反抗〕
〔解雇-解雇権の濫用〕
 被告会社主張の解雇事由については、以上のとおり認めることができるところ、その認定した個々の事実については、その一つをとって解雇事由とするには、いずれもいささか小さな事実にすぎない。ただ、前項の(三)(七)(九)(一〇)及び(三)に認定のとおり、原告は、その上司に当たる被告Y1や経理担当課長の被告Y2に反抗的であり、過激な言辞を発してその指示に素直には従わず、また、Aに対しても、不穏当な言動をしているのであるが、これらを総合すれば、原告には、総じて、上司たる被告Y1や被告Y2に反抗的で、他の従業員に対しても、ときに感情的な対応をする傾向があったといわなければならない。その原因としては、攻撃的な原告の性格面に加え、原告にはフランスの著名な香料学校の出身であるという自尊心が高く、被告代表者Bの信頼を得て、東京研究室の重要なポストを与えられることになっていたのに、その開設に、被告Y1及び同Y2が協力的でないと考えていたことにあるかと思料され、また、平成七年一月三一日の事件以後の感情的なしこりが存在していたことも否めないが、これらを考慮しても、原告の種々の言動は、部下の上司に対する言動としてみれば程度を超えており、被告Y2やAに対する言動も職場の秩序を乱すものといわざるを得ない。そうであれば、原告を解雇した被告会社の措置は、その効力を否定することはできず、これを解雇権の濫用とする事由もない。〔中略〕
〔労基法の基本原則-均等待遇-セクシャル・ハラスメント〕
 原告の被告Y1のセクハラ行為についての供述についても、右以上に、これを裏付けるに足りる証拠はないうえ、原告も、同月二八日には、既に被告Y1から言い寄られたりしていたというのであれば、深夜から明け方近くまで飲酒等に連れ回されて、唯々諾々とついて行ったことは納得できないところであるし、前記同月三一日の事件についても、研究室の被告Y1の部屋において、卑わいなことを言われて、精神的な打撃を受けたといいながら、帰宅もしないで食堂までついて行っているということは、大きな矛盾点である。原告本人の供述、その陳述書(〈証拠略〉)の記載には、そのほかにも、解雇後の事情などについて明らかに誇張と思われる部分もあり、これを全面的に採用することはできないところであり、被告Y1の東京研究室開設に対する非協力的態度も、それだけでは原告主張のセクハラ行為を裏付けるものではなく、そうであれば、いまだ、原告主張のセクハラ行為を認めるに足りる証拠はないといわなければならない。
 3 被告Y2のセクハラ行為についても、これを裏付けるに足りる証拠はないうえ、原告本人の供述及び陳述書の記載については、前項と同様の理由により、これを採用することはできず、いまだ、これを認めることはできない。
〔賃金-賞与・ボーナス・一時金-賞与請求権〕
 四 平成七年度賞与
 賞与の額が年間一一四万円であったことは、当事者間に争いがない。ところで、その支払時期についての合意があったと認めることができないのであるが、その支払時期は、遅くともその年度末には到来するものであるから、これが既に到来していることは明白である。そこで、その支払うべき金額であるが、その報酬が年額として決められ、賞与の計算方法に特段の合意がないことからすると、年度途中で退職した場合には、勤務した日数により按分するのが相当である。〔中略〕
〔寄宿舎・社宅-社宅の使用関係〕
〔寄宿舎・社宅-寄宿舎・社宅の利用-被解雇者の退去義務・退寮処分〕
 被告会社は、平成六年一一月二八日に原告を調香師として採用し、東京研究室が平成七年一月末を目処に開設されるまでの間、原告が被告会社の大阪市内の研究室で、調香の研修をし、東京研究室の開設準備作業に従事するための住居として、本件マンションを原告に無償で使用させたのであるから、被告会社と原告は、右使用貸借契約締結に当たって、期間を原告が被告会社の従業員として調香の研修をし、東京研究室開設作業が終了するまでとする旨の黙示の合意があったというべきであるから、遅くとも、被告会社が原告を解雇し、明渡しを求めた平成七年七月末日には、右使用貸借契約の期間が経過したというべきである。