全 情 報

ID番号 07180
事件名 退職金等請求事件
いわゆる事件名 ファイブワン商事事件
争点
事案概要  退職金に関する独自の規定は存在しないが、訴外会社の給与規定が適用されていたとして、退職金も同訴外会社の規定に基づいて支払うべきとされた事例。
 退職金計算にあたっての勤続年数につき、会社組織変動前の年数として計算すべきとされた事例。
 退職金受給に関する労働者性につき、本件代表取締役に就任したことによって、従業員としての地位を喪失したとされた事例。
参照法条 労働基準法9条
労働基準法89条1項3の2号
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 取締役・監査役
賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算
裁判年月日 1998年9月18日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (ワ) 4953 
平成9年 (ワ) 11907 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例753号68頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 1 証拠(〈証拠・人証略〉、原告X1本人、原告X2本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば、被告においては、従業員の労働条件については、Aと同一の内容の就業規則及び給与規定が適用されていたことが認められる。
 被告は、これを否定し、(人証略)がこれに沿う証言をする。しかしながら、原告X1本人の供述は、平成四年四月頃、Aの就業規則が改正された際、同社から就業規則をもらい、表紙を付け替えたものをスチール棚に保管していたという具体的なものであって、これは原告X2の供述ともほぼ一致する(原告X2は、社名部分に紙を貼って被告社名が記載してあった旨供述し、原告X1の供述と若干の食い違いはあるものの、この程度の記憶違いが生じることは不自然ではない。)。また、被告の定年が六〇歳であること(この事実は〈人証略〉によって認められる。)及び原告X2の休職期間が一年半であったことは、いずれもAの就業規則の規定に合致していること、(人証略)も、被告の従業員の給与や休暇についてはAの就業規則に拠っていたことを否定していないこと等に鑑みれば、現実にも被告においてAの就業規則と同様の労働条件が適用されていたことが認められる。これらの事情に照らせば、原告X1の供述は信用できるというべきである。これに対し、(人証略)の証言は、被告には就業規則がない旨述べるのみで、給与、労働条件等をどのように定めていたのかについては曖昧な証言に終始し、およそ複数の従業員を雇用する株式会社において労働条件等について準拠するものが全くないということは想定し難いことを考えると、その証言はいずれも信用し難いというべきである。
 2 右のとおり、被告においては、Aと同一の内容の就業規則及び給与規定が適用されていたというべきところ、退職金に関する規定は右給与規定と一体となっているのであるから、特段の事情がない限り、右給与規定中の退職金に関する規定が、被告の従業員についても適用されるというべきである。〔中略〕
〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 (一) 会社組織の変動について
 以上の経緯に照らせば、登記簿上は昭和四三年七月と昭和五二年七月に会社組織上の変動が見られるけれども、これらは、いずれも、会社の業務上の都合から、Bグループ内での販売部門の位置付けを替えたというものに過ぎないことが明らかであり、かつ、これらの時期に原告らを含む従業員の就業場所や業務内容に変動をきたしたこともなかったことが認められる。そして、従業員自身もそのような会社の組織変動について知らされていなかったか、又は関心がなかったことは、(人証略)によっても明らかである。また、証拠(〈証拠略〉)によれば、従業員の社会保険上は、昭和四〇年にはA株式会社から旧B商事への事業主変更の手続が取られたが、その後は、事業主変更の手続は一切取られていないこと、原告X2の給与のうち、勤続給は毎年一四〇〇円ずつ増加しているところ、同人の平成三年三月までの勤続給三万五〇〇〇円、同年四月からの勤続給三万六四〇〇円及び平成四年四月からの勤続給三万七八〇〇円は、昭和四一年から毎年一四〇〇円を加算していった金額と一致することが認められ、これらによれば、被告自身が、従業員の雇用契約上は、昭和四三年と昭和五二年の組織変動を無視して取り扱っていたことが明らかである。
 以上によれば、被告における退職金の算定の基礎となる勤続年数は、旧B商事入社時から計算するのが相当である。
〔労基法の基本原則-労働者-取締役・監査役〕
 (二) 原告X1の従業員性について
 (1) 前記認定によれば、原告X1は、昭和五二年七月被告の取締役に就任したが、従前と業務内容に変化はなく、また、職制上は部長の肩書を有していたというのであるから、当時は従業員を兼務していたと見ることができる。しかしながら、原告X1は、昭和五三年一〇月三〇日に被告の代表取締役に就任したことによって、従業員の地位を喪失したというべきである。なぜならば、代表取締役は、会社を代表する権限を有する会社の最高機関であって、その地位は本質的に従業員とは相容れないというほかはなく、代表取締役への就任が全く名目的なものである等の特段の事情がない限り、代表取締役と従業員の地位を兼ねることは認められないからである。本件においては、確かに、代表取締役就任の前後を通じ、原告X1の業務内容に大きな変化はなかったものの、原告X1は、代表取締役に就任中は、常務取締役の肩書のもと、従業員らの出資のとりまとめをし、自己の名において手形や小切手を発行し、営業部門の最高責任者として他の従業員を指揮監督していたのであるから、全く名目的な代表取締役であったとは到底いえない(なお、原告X1は、代表取締役への就任を知らなかった旨供述するが、自己の名で手形を振り出していたことに照らすと、信用し難い。)。
 そして、原告X1は、代表取締役を退任した後も、引き続き被告の営業部門の最高責任者であるとともに、常務取締役として、日常業務全般にわたり従業員を指揮、監督するなど、被告の業務全般を取り仕切り、従業員の労働条件や処遇に関しても、現場における責任者としてその処理に当たっていたのであって、原告X1と被告との間で改めて雇用契約が締結されたことを窺わせる事情もないことに鑑みれば、原告X1は、代表取締役を退任した後も、従業員の地位を兼務していたとはいえないというべきである。