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ID番号 07181
事件名 配転命令無効確認等請求事件
いわゆる事件名 東邦大学事件
争点
事案概要  看護婦に対する配転命令につき、雇用契約において就労場所の特定はしておらず、職種については看護婦と特定していたが看護問題対策室の業務が看護業務と異なる業務とはいえず、配転命令権の濫用に該当しないとして有効とされた事例。
参照法条 民法1条3項
労働基準法2章
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
裁判年月日 1998年9月21日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (ワ) 17637 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例753号53頁/労経速報1681号23頁
審級関係
評釈論文 倉田賀世・労働法律旬報1460号12~17頁1999年7月25日
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 二 原告らと被告の雇用契約
 1 原告らはいずれも看護婦として採用され、A病院勤務を命じられていること(〈証拠略〉)、原告らは、被告に雇用されて以来、A病院において、看護婦としての専門的知識・経験を活かした業務に従事してきたこと(当事者間に争いがない。)、被告医学部付属の三病院間ではこれまで看護婦の配置転換が行われてきたこと(〈証拠・人証略〉)、被告の就業規則四条に職種に関する規定、同一八条に配置転換に関する規定が存すること(〈証拠略〉)などからすると、原告らは、被告と雇用契約を締結する際、原告らの職種を看護婦に限定し、原告らの承諾がない限り、そのほかの業務に従事する義務を負わないとする合意があったと解するのが相当であるが、就労場所をA病院とする合意まであったと解することはできない。〔中略〕
 (二) 右によれば、看護婦業務といっても、看護婦長職以上では、看護婦本来の業務である「傷病者若しくはじょく婦に対する療養上の世話又は診療の補助をなすこと」(保健婦助産婦看護法五条)に直接従事するだけでなく、看護婦としての技能を活かして人事・労務管理的業務、研究業務に関与することも求められ、これらも看護婦としての業務の一部であったということができ、特に副看護部長職では、看護婦の募集業務に関するものも含まれている。
 一方、看護問題対策室における業務は、前記一8のとおりで、看護婦の募集業務及び看護婦の離職防止業務を担当する部署であり、事務職員によって事務的業務は処理されていたが、各地の看護学校等を訪問して、看護婦の応募勧誘業務を行う際は、副看護部長、婦長等看護婦職にある者も同行していたことからすれば、同対策室における看護婦募集業務には看護婦の有する専門的知識も必要とされていたことは明らかである。
 そうすると、同対策室において原告らが担当すべき業務が看護婦業務と必ずしも異なる職種であるということはできない。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 これらの事情に照らせば、職務内容の変更の程度、それによって原告らが苦痛を受けることは否定できないとしても、原告らのA病院における勤務の継続が困難であり、B病院、C病院への異動も不可能であったこと、患者に接するという看護婦業務の性質からして、看護婦間の人間関係に問題があることや指揮命令が円滑になされないことは業務に対し大きな弊害となると考えられること及び被告が看護問題対策室の業務をより強力に推進しようとしていたことなどから、被告の業務上の必要性は、極めて高かったというべきであるし、原告らが被告医学部付属の三病院で婦長として勤務することが困難であった上、看護婦として豊富な経験を有し、看護婦募集業務に関与した経験も有していたことから、人選についても一応の合理性が認められるということができるのであって、さらに原告らに特段の経済的不利益もなかったことを併せて考慮すれば、他に原告らの主張を認めるに足りる証拠もない以上、本件配転は、権利の濫用に当たるということまではできない。