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ID番号 07221
事件名 航空券優待取扱権存在確認等請求事件
いわゆる事件名 富士インターナショナル事件
争点
事案概要  中華航空公司の航空座席の予約及び発券業務等を目的とする会社に勤務していた原告が、退職後、中華航空公司の就業規則の規定の準用を主張し、航空券優待取扱いの権利を求め、また同権利が得られなかったことによる損害賠償を請求したケースにつき、両者は資本関係もない独立した法人であること、また発券についての合意もなかったとして、右請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条
体系項目 就業規則(民事) / 就業規則の適用対象者
裁判年月日 1998年9月28日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (ワ) 24677 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1695号10頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔就業規則-就業規則の適用対象者〕
 2 右の事実によれば、被告は、専ら中華航空の総代理店として、中華航空の営業に関する業務一切、かつ、右業務のみを行い、中華航空とは人的異動もあり、オフィスも共用し、対外的には中華航空の名称を用いることもあるなど同社との関連が極めて密接であったことは明らかである。また、中華航空としては、日本において営業活動を行うことができなかったために、被告に対し、中華航空に代わって営業活動をさせていたという面があり、中華航空側からすれば、被告は日本における営業部門的な位置づけであったことも否定できない。
 しかし、一方において、被告は、中華航空とは資本関係もないあくまでも独立の法人であり、税務処理その他も各別に行われ、従業員や役員の兼任がないのはもちろんのこと、中華航空とは別に独自の就業規則も有していたのである。
 右によれば、被告は、実態において、前記のとおり、中華航空と密接な関連があったとしても、独立の法人格を有し、被告の従業員もおり、独自の就業規則を有している以上、被告の従業員に中華航空の規定が当然に適用されるということはできない。
 なお、被告が中華航空の総代理店であることからすれば、中華航空と密接な関連を有するのはむしろ当然であり、オフィスの共用にしても業務の効率性、経費の節減の観点から合理的であるとの判断のもとに行われている(人証略)のであり、特に不自然であるということもできない。
 確かに、被告と中華航空との間での人事異動に関する被告の新旧就業規則上の規定によれば、移籍等を命じられた従業員は、これを拒むことができないのに、退職時に被告に所属しているか中華航空に所属しているかの一事によって(勤続年数にも関係なく)、航空券優待取扱制度の適用の有無が決まるというのは、従業員間で不公平感が拭えないではないが、両社がそれぞれ独立の法人である以上、やむを得ないというほかない。
 3 次に、被告において、前記のとおり、中華航空と密接な関連を有すること、被告と中華航空の従業員間で航空券優待取扱制度について旧就業規則に従えば差異が生じることなどから、同制度が被告においても準用されるような慣行があったかどうかについて検討する。
 被告の従業員であったAが退職した際、新就業規則の施行以前であったにもかかわらず、航空券優待取扱制度が適用されたことは当事者間に争いのないところ、前記認定によれば、当時、被告の要請を受けた中華航空日本支社が、本社の許可を得て行ったというのである。そのことからすると、それまで、被告において定年退職者がおらず、前例がなかったというだけでなく、被告も中華航空も被告の定年退職者の扱いについて、航空券優待取扱制度が準用されるものであるとの認識はなかったことが窺える。また、前記のとおり、原告の退職後約一年半を経て、新就業規則に航空券優待取扱制度について規定された経緯、すなわち、被告が、人材確保の観点から福利厚生面の向上を図るべく、B支社長を通じて本社に打診し、同意を得た結果であったことからすれば、新就業規則の規定が単にそれまでの慣行の明文化にすぎないというのは不自然である。そして、旧就業規則当時、右A以外には同制度が適用された被告の従業員は皆無であったことなども併せて考慮すれば、同制度を被告の従業員に準用するとの慣行があったということはできないというべきである。
 原告と被告の航空券優待取扱制度に関する合意について
 (書証略)及び原告本人尋問には、B支社長、被告の総支配人Cが原告に対し、始末書を提出して自己都合退職に応じれば、航空券優待取扱制度を適用する旨約したため、すでに被告に勤務する意思のなくなっていた原告はこれに応じて始末書(書証略)を提出したとする記載及び供述部分がある。
 しかし、原告の旅客営業部長解任からその退職に至ったきっかけは、B支社長が原告の不正行為について調査し、その結果不正行為があったものと判断したことによることは当事者間に争いはない(ただし、不正行為の存否については当事者間に争いがある)ところ、その状況を踏まえれば、当時B支社長らが航空券優待取扱制度の適用を約するのは不自然である。むしろ、原告に対する退職金は支払われていること、原告が、その退職後、被告を通じて優待航空券の発券を求めてきた際、B支社長は、不正行為があった以上、優待航空券の発券はできない旨回答したこと、しかし、原告の強い要求を受けて、原告の勤続年数などを考慮して本社と検討した結果、東京、台北間のエコノミー往復航空券を発券することになり、その後は約二年を経過するまで原告からの要求はなかったこと(証拠略)などからすると、原告主張のような合意はなかったものというべきであり、他に原告の主張を認めるに足りる証拠もない。