全 情 報

ID番号 07228
事件名 解雇無効確認等請求事件
いわゆる事件名 中央タクシー事件
争点
事案概要  「セクハラに抗議した女性三人を解雇」等と題するビラ配布行為は組合活動の一環としてなされたもので、右行為を理由とする組合委員長に対する解雇が無効とされた事例。
 タクシー乗務員が休憩時間内に裁判支援活動を行ったことを理由とする出勤停止処分が無効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法34条2項
労働基準法89条9号
民法1条3項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
解雇(民事) / 解雇事由 / 名誉・信用失墜
休憩(民事) / 休憩の自由利用 / 自由利用
裁判年月日 1998年10月16日
裁判所名 徳島地
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ワ) 366 
裁判結果 一部認容、一部棄却(確定)
出典 労働判例755号38頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-名誉・信用失墜〕
 (ア) 平成八年二月一四日、組合に所属する被告会社の女子従業員が、被告会社の幹部職員からセクハラ行為の被害を受けたとして抗議をしたことに対し被告会社から正当な理由もなく解雇されたとして、被告会社を相手に従業員地位保全の別件仮処分を申し立てたところ、この事件は、翌日の地元新聞やテレビで大きく報道された。
 (イ) 組合は、別件仮処分を支援するとともに、裁判外でも右女子従業員の解雇撤回を求める運動を開始することを決定し、その一環として組合委員長の原告X1が責任者となり、被告会社による女子従業員の解雇を批判する内容のビラを作成し、平成八年三月一七日、原告X1、同X2ら組合員数名が、徳島駅前で一、二時間の間に約五〇〇枚配布した。
 (ウ) 右ビラは、「セクハラに抗議した女性三人を解雇」「Aタクシーグループは不当解雇を撤回せよ」と大文字で見出しを付け、「一月三一日、Aタクシーグループの無線配車に従事する女性が男性管理職にセクハラをうけ、それを抗議した本人と女性上司、同僚の三名が会社に解雇されました。『こんな理不尽は許せない』と二月一四日徳島地裁に地位保全の仮処分を申し立ててたたかっています。」と別件仮処分に至った経緯を詳しく記載しているほか、被告代表者の個人名を明らかにして、「B社長自ら、Cさんが入社したとき『ひとり暮らしなのに、やっていけるんか、わしの女になるんだったら金ぐらい出してやる。』と何度も言っていたのです。結婚式場(D)を経営する社長の言動とは思えません。」との記載、「Aタクシーグループとは」と少し大きめの字体で見出しを付けた上、「B社長が経営する企業グループで、A・E・F・Gタクシーのほか、結婚式場のD、料亭のHなどがあります。」との記載等がある。
 (エ) 被告会社は、セクハラ問題に関連して生じた裁判支援活動に伴う原告らの行為等が就業規則所定の懲戒処分事由に該当することを理由に、原告X1に対しては、平成八年三月二二日、同年四月二二日付けで解雇する旨の通告をした。また、被告会社は、しばらくして、前記女子従業員からセクハラ行為で訴えられた幹部職員に対し、問題を起こした責任をとらせて離職させた。
 (2) ところで、原告X1の前記ビラ配布行為は、組合活動の一環としてなされ、組合委員長の立場でこれに参加したものであり、文書によって職場環境の実状等を外部に訴えることは当然認められなければならないので、その記載事実が虚偽であるとか表現が誇大にすぎるなどの事情がない限り、正当な組合活動として許されるというべきである。してみれば、当該ビラの記載内容のうち、別件仮処分に至った経緯に関しその中核部分に相当する被告会社幹部職員によるセクハラ行為や、被告代表者による問題発言の点については、前掲証拠に照らしてその存在を推認し得るところであり、少なくとも、右ビラ掲載内容が事実に反する虚偽のものであるとまで認定することはできず、また、Aタクシーグループの説明内容が事実に合致していることは明らかである。
 被告会社は、右ビラの内容が、あたかもAタクシーグループの一員である結婚式場(D)や料亭(H)でもセクハラが行われているかのような誤解を招き、グループ全体をセクハラに結びつけ、企業イメージや信用を著しく悪化させるものである旨主張するけれども、前認定のとおり、「結婚式場(D)を経営する社長の言動とは思えません。」と意見にわたるような記載があるほかには、右結婚式場や料亭でセクハラ行為が行われているとの記載はない上、被告会社女子従業員に関するセクハラ問題は右ビラの配布より先になされた別件仮処分についてのマスコミ報道によってタクシー会社固有の問題であることが明らかにされていたのであるから、右主張は理由がない。
 (3) 以上によれば、原告X1の前記ビラ配布行為は、正当な組合活動として許されるというべきであるから、右行為か、就業規則三〇条一項二号の「反社会的行為」、六六条七号の「社会的規範に反する行為」、同条二七号の「不用意な流言飛語」の解雇事由に該当しないことは明らかである。
 仮に、原告X1の右ビラ配布行為が、服務規律を定める五条一項一号の「会社の信用と名誉を傷つける行為」、あるいは、同項九号の「会社業務遂行の妨げになるような行為」に該当し、かつ、「その情が重いとき」(六六条三八号、六五条一項一七号)には、本件解雇が許されることになるが、その情が重いかどうかを判断するに当たっては、解雇処分が労働者の雇用関係を消滅させてしまう点で、使用者が労働者に対して行う懲戒処分の中で最も重い部類に属するものであるので、規則違反の種類・程度その他の事情に照らして当該解雇を社会通念上相当とするような場合でなければならず、右相当性を逸脱する場合には、解雇権の濫用として当該解雇を無効とすべきであるところ、原告X1のビラ配布行為は正当な組合活動であって、社会通念上、解雇を相当とする場合には当たらないというべきである。
 また、その他被告会社が主張する五条一項二号、八号等の就業規則違反も見当たらない。
 2 以上のとおり、本件解雇は、原告らのその余の点(不当労働行為該当性)を判断するまでもなく、解雇事由の不存在により無効(場合によっては解雇権濫用による無効を含む。)というべきである。〔中略〕
〔休憩-休憩の自由利用-自由利用〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 しかしながら、本来、休憩時間をどのように使用するかは従業員の自由であり(労働基準法三四条三項、就業規則三四条一項本文)、また、タクシー運転手の業務内容からみて、休憩場所をどこにするかはその裁量に任されていると解すべきである。また、被告会社は、就業規則三三条一項別表2のとおり、タクシー運転手に一勤務二時間の休憩時間を認めており、しかも、休憩時間をどの時間帯でとるかはタクシー運転手の裁量に任され、一時間を超えて二時間まで連続して休憩することも事実上容認されていたことがうかがわれる(〈証拠・人証略〉)。そうすると、原告X2が当庁まで別件仮処分の申立人の一人を有料乗車させたことは正当な業務行為であり、また、その後、休憩に入り、休憩時間内に別件仮処分の支援活動を行ったことは、休憩時間中の行動として何ら懲戒事由に該当するものではなく、結局、前記出勤停止処分は無効というほかない。