全 情 報

ID番号 07234
事件名 賃金請求事件、売買代金反訴請求事件
いわゆる事件名 大阪セクシュアルハラスメント(歯材販売会社)事件
争点
事案概要  社長が女性社員に対し、下着を見せたこと、顧客の面前で「昨夜あなたはどうやって私の部屋に入ってきましたか」との発言は不法行為に当たらないが、出張先のホテルでベッドに誘った行為は雇用契約上の地位を利用して性的関係を求めたものであり不法行為に当たるとして、被告会社に一〇万円の慰謝料の支払が命ぜられた事例。
参照法条 民法44条
民法709条
民法710条
商法78条2項
商法261条3項
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / セクシャル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント
裁判年月日 1998年10月30日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ワ) 13269 
平成10年 (ワ) 2903 
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例754号29頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-均等待遇-セクシャル・ハラスメント〕
 1 香港出張中の行為について
 (一) 証拠(〈証拠略〉、原告本人、被告代表者本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば、Aは、原告を伴って香港に出張した平成七年一〇月二三日ころ、セーフティボックスの開け方が分からないと言って原告をホテルの自室に呼び、セーフティボックスを開けさせたこと、その際、原告が在室しているにもかかわらず、ズボンのベルトをゆるめ、ズボンをずり降ろして下着をあらわにし、財布等を入れているキャッシュベルトを取り出したことが認められる。
 (二) しかしながら、右Aの行為は、確かに、近くにいた原告に不快感を与える行為であり、無神経な行為として非難されるべきではあるものの、このような性的不快感を与えるに過ぎない行為は、これが不法行為と評価されるためには、右行為が、原告に対し性的不快感を与えることをことさら意図して行われたものであることを要するというべきである。しかしながら、右行為を、Aがかかる意図をもって故意に行ったことを認めるに足りる証拠はないから、これが不法行為を構成するとする原告の主張は理由がない。〔中略〕
 (二) 右Aの行為は、社長であるAが、女性であり、かつ一従業員にすぎない原告とホテルの一室で二人きりでいる状況のもとで、明らかに原告をベッドに誘うような行動をとったものであって、社長と一従業員という両者の関係、ホテルの一室で二人きりであったという状況等に鑑みると、右行為は、原告に対し、雇用契約上の地位を利用して性的関係を求めた行為として、いわゆるセクシャル・ハラスメントに該当し、不法行為を構成するというべきである。
 3 上海滞在中のAの発言について
 原告は、上海滞在中であった平成七年一二月中旬ころ、顧客を交えての夕食の席上、Aが「Bさん、昨晩あなたはどうやって私の部屋に入ってきましたか。」と回りに聞こえるような声で言ったと主張し、これが原告に対する不法行為を構成する旨主張する。しかしながら、性的不快感を与える発言は、常に不法行為となるのではなく、これが雇用関係上の地位を利用し、ことさら性的不快感を与えたり、あるいは性的関係を強要したりした場合に不法行為となると解すべきところ、仮に事実が原告主張のとおりであるとしても、右発言がいかなる趣旨でなされたものか明らかでなく、これが雇用関係上の地位を利用し、ことさら性的不快感を与えたり、あるいは性的関係を強要したりする意図でなされた発言であるとまでは認められない。したがって、右発言が不法行為を構成するとする原告の主張は採用できない。〔中略〕
 5 慰謝料について
 以上のとおり、Aの前記2記載の行為は、原告に対する不法行為を構成するというべきところ、右は、Aがその社長としての地位を利用して行ったもので、被告の職務に密接に関連する行為であるから、民法四四条、商法七八条二項及び二六一条三項により、被告は、右行為により原告の蒙った損害を賠償する責任がある。
 そこで、原告の蒙った損害について検討すると、Aの行為は、不法行為を構成するものの、Aは手の動きでベッドに誘うような行為をしただけであって、原告の身体に触れたこともなく、また、原告が誘いに応じないと分かると、直ちに右行為をやめたことに照らすと、その違法性の程度はそれほど高くないというべきであるから、原告が蒙った精神的損害に対する慰謝料の額は、一〇万円が相当である。