全 情 報

ID番号 07241
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 フットワークエクスプレス事件
争点
事案概要  トラック運転手に対する大津市内から和歌山市内への転勤命令拒否を理由とする懲戒解雇が無効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条9号
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 配転・出向・転籍規定
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
裁判年月日 1998年11月17日
裁判所名 大津地
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ワ) 376 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例756号44頁/労経速報1699号23頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-配転・出向・転籍規定〕
 就業規則の改正による転勤
 (一) しかし、労働契約上転勤の合意がなかったとしても、労働契約後の就業規則改正によって、一定範囲内の転勤が可能になったものと認められる。
 すなわち、(証拠略)によれば、原告が採用された年の昭和五八年の就業規則において、業務の必要により、従業員に転勤又は勤務替え及び会社外への業務をさせるために出向させることがあること(第一五条1項)及び転勤を命ぜられた者の引継と赴任手続(第一六条、第一七条)が定められたこと、次いで、昭和六三年の就業規則において、同趣旨の条項(第一八条ないし第二〇条)が制定されたほか、新しく社員をブロック社員とその他に区分けし、ブロック社員の勤務地をブロック内の店所に限定したこと(第六条)、ブロック社員の賃金体系は地方社員(居住地から通勤可能な店に勤務する者)より有利であること、原告は関西ブロック社員に該当するが、同ブロックの範囲は、滋賀、京都、大阪、西大阪、大阪東、阪和及び本社であり、被告は右の各改正の際点呼時の説明や、掲示により改正内容の周知徹底を図ったこと、ブロック社員制度は被告とA労働組合との間で締結された労働協約(平成三年一月制定)の中でも第二一条で明記されていることが認められ、右認定に反する(証拠・人証略)は前掲証拠と対比して直ちに措信することができず、他に、右認定を覆すに足りる証拠はない。
 そして、右各就業規則の改正が労働者の不利益に変更されたとか、又は変更の合理性がないものと認めるに足りる特別の事情は窺われない。してみると、右就業規則の改正が周知された結果、原告は関西ブロック社員として阪和エリアを含む関西ブロック内の転勤対象者の身分に置かれたものということができる。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 (二) しかし、進んで、被告が本件配転命令を出さなければならない業務上の必要性があったか否かについては、これを認めるに足りる的確な証拠はない。
 すなわち、(証拠・人証略)によれば、被告においては、近年、不況の長期化、過当競争時代に対する合理化政策の一環として、ミニ店の統廃合を進めてきたところ、阪和支店の管轄下にあったミニ店の高野口店も阪和支店に統合することになり、平成八年五月三一日限りで閉店したこと、しかし、職員二名、運転手五名、計七名を全員引き取ってエリアを確保する予定であったのが、管理職一名を除く六名が閉店のころに全員退職したため、その補充に難航し、地元で確保することができず、地元の他の業者に業務委託を行った後、最終的に、関西ブロックを管轄するB関西主幹に後任運転手の補充を要請したことが認められる。しかし、高野口店のエリアは広い山間部で人口が少ないが(〈人証略〉)、そのエリアを確保する必要性がどの程度あったのか、業務委託の方が安上がりなのに(〈人証略〉)、どうしてこの方法で賄えなかったのか、収支率は阪和支店より大津店の方が高いが(〈証拠略〉)、収支率の高い店から低い店へ異動させる必要がどの程度あったのか、従来五名の運転手で貨物集配業務を行っていた広い山間部のエリアに、地理も交通事情も不案内な原告一名だけを配転する必要がどの程度あったのか、これらの点について納得できる事情は窺われず、これらの点のほか、当時の阪和支店の業績は落ち込んでいたこと(〈証拠略〉)、被告は、職業安定所で平成八年四月九日から同年六月三〇日まで求人募集した程度で、それ以外に求人募集した形跡がないこと(〈証拠略〉)を考え合わせると、阪和支店が高野口店のエリアを確保するため新規に運転手を補充する必要があったかどうかは、疑問というべきである。仮に、その必要性を認めるとしても、退職運転手らの後任として原告が最適任者であったかどうかについては、大津店のブロック社員は原告だけでなく、運転手の殆どがブロック社員であること(〈証拠略〉)、高野口店のエリアは特に運転技術を要せず、運転手なら誰でも集配業務に従事できること(〈人証略〉)、平成八年九月以降、新人のC運転手が原告の後任として大津店の堅田地区を担当して現在に至っていること(〈証拠略〉)から、大津店に運転手を出せる人的余裕があったとはいえないこと、これらの点に加え、原告の家庭環境(二項及び後記4項)に照らすと、原告が果たして阪和支店の補充運転手として最適任者であったかどうか疑わしく、これに反する、堅田エリアと高野口エリアとの地域環境、人口分布の類似性、原告の経験と実績等により原告が最適任者であるという(証拠・人証略)は直ちに措信することができず、他に、被告主張の本件配転命令の必要性を裏付ける的確な資料はない。
 してみると、本件配転命令はその必要性を欠き無効であると認めるのが相当である。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 4 争点4(解雇権の濫用)について
 また、仮に、被告が本件配転命令を出す必要があったとして、本件懲戒解雇が権利の濫用として無効であるか否かにつき検討するに、前記争いのない事実、(証拠略)によれば、原告は、妻と高校生の子供二人、母及び実弟の六人暮らしで、大津市(略)に所有する自宅で六人全員が生活していること、妻は平成七年一月にくも膜下出血で倒れて開頭手術を受け、現在は病状をみながら三か月に一度定期的に通院しており、そのかたわら、パート勤務(月六万七〇〇〇円程度の収入)に出ているが、気候の変化による頭痛、ストレス、精神不安定による頭痛、身体の疲れによる頭痛がときどきあり、不安を抱えた中で生活していること、実弟は知的障害者(精神薄弱)で、D学園という施設に通園しており、収入はないこと、原告は母から毎月五万円程度の援助を受けているが、家族六人の生活費は主として原告が被告から得る賃金で支えており、経済的、精神的にも一家の中心的な存在であること、以上の事実が認められる。右事実に加え、原告がこれまで一四年間真面目に働き、なんらの懲戒処分を受けたこともないこと、本件配転命令の必要性が仮にあったにしても、それほど強いものではなかったと窺われ、これらの事情を総合すると、本件配転命令は権利の濫用として許されず、したがって、その命令違反を理由とする本件懲戒解雇は無効というべきである。