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ID番号 07245
事件名 公務外災害認定処分取消請求控訴事件
いわゆる事件名 地方公務員災害補償基金広島支部長事件
争点
事案概要  市職員が腎臓移植を受け免疫性抑制剤を含む投薬治療を継続していたところ血栓症を発症したことにつき公務起因はないとされた事例。
 市職員が肝炎を発症・増悪させたことにつき、過重な公務による肉体的精神的ストレスによるものであるとして、公務起因性ありとされた事例。
参照法条 地方公務員災害補償法45条1項
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
裁判年月日 1998年12月1日
裁判所名 広島高
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (行コ) 4 
裁判結果 変更、一部認容、一部棄却(上告)
出典 タイムズ1004号151頁/判例地方自治191号38頁
審級関係 一審/広島地/平 9. 6.26/平成5年(行ウ)9号
評釈論文 西森みゆき・平成11年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊1036〕380頁2000年9月
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
 控訴人は、昭和五六年一一月から昭和六〇年一月ころまで、内勤に制限されてはいるものの他の内勤の同僚とほぼ同程度の公務を担当し、本件疾病である血栓症を発症するまで、格別の支障なくその公務に従事していたものと認められる。また、控訴人は外勤及び時間外勤務を免除されており、血栓症発症前の公務内容をみても、特段、過重な公務が控訴人に加えられたという事情は見当たらない(なお、控訴人が主張する公務の過重性が認められないことは、原判決五四頁二行目から同五五頁九行目に記載するとおりであり、これを引用する。また、昭和五七年一〇月に罹患した高血圧症についても、これが腎移植の合併症として発症したとも考えられ、直ちに公務の過重性を裏付けるものとは認められない。)。
 控訴人は、昭和五八年三月ころには、他の職場への配置換えを申し出るなどしており、この職種に精神的なストレスを感じていたことは前記のとおりである。しかしながら、控訴人は、腎移植後、継続的に免疫抑制剤及びステロイド剤の投与を受けていたことからすると、免疫抑制剤やステロイド剤による血管壁の硬化により、あるいはステロイド剤の副作用による血栓症の可能性も否定できず、右公務によるストレスが、血栓症の発症にどの程度作用したものか否か判然とせず、結局のところ、控訴人の血栓症の発症が公務によるストレスの危険性の現実化によるものであるとまでは認めるに足りない。〔中略〕
 控訴人は、昭和六〇年五月一日に復職後昭和六一年三月までは内勤作業に従事したが、同年六月からは、常時外勤職員として主として外勤作業である住居表示付定作業に従事し、他の二名のある程度習熟した同僚職員とともにほぼ同程度の外勤作業を行い、同年七月からは、内一名が他の作業に従事するようになったため、他の一名の同僚職員と二名で住居表示付定作業に従事するようになり、さらに、区民スポーツ大会、夏の交通安全運動等の業務のために、同年五月、七月、九月、一〇月に、他の地域振興課あるいは安佐南区の職員と同程度の時間外勤務及び休日勤務を行ったものであり、昭和六一年六月以降、地域振興課の常時外勤職員として同僚職員と同程度の公務に従事したものと認められる。ところで、控訴人は、身体障害者一級に認定され、右復職時において、血栓症の外来通院、腎移植後の免疫抑制剤を含む投薬治療を継続しており、このため、産業医・療養診査会とも、内勤で軽作業が適当である旨の判断をしていたのである。控訴人は、これらの治療を継続しながら右のような外勤作業を主とする公務に従事する過程で、昭和六一年八月に肝機能障害が出現し、同年一〇月に肝炎を発症し、さらに、このための通院加療及び経過観察をしながら右のような公務を継続し、昭和六二年一月には帯状疱疹を発症し、肝炎は慢性化するに至ったのである。
 右の経過に照らせば、控訴人の肝炎の発症は、控訴人の基礎的疾病である非A型非B型ウィルス性肝炎の症状が現れたものであり、その発症の原因には、控訴人の服用する免疫抑制剤の副作用もあるが、公務による肉体的精神的ストレスによる免疫力の低下もその原因となっているものと認めることができる。そして、控訴人の従事した右公務は、健常な同僚職員にとっては通常程度の作業量の外勤等を主体とする作業であるが、控訴人は、右のとおり身体障害者一級の認定者であり、腎移植を受け、かつ、血栓症を発症し、そのための外来通院、免疫抑制剤を含む投薬治療を継続していたのであり、このことからも、産業医・療養診査会とも、内勤で軽作業が適当である旨の判断をしていたのである。右のような控訴人の身体状況で通院等の治療を継続しながら従事した右公務は、控訴人にとって相当程度に過重なものであり、このために、右基礎的疾病の自然的な経過を超えて肝炎が発症したものと認めるのが相当である。したがって、控訴人の肝炎の発症は、右公務に内在する危険性が現実化したものというべきである。
 次に、控訴人の発症した肝炎は、昭和六二年一月ころから慢性化し、同年九月ころから昭和六三年一月ころにかけて増悪傾向を示し、同年二月ころに改善されたものの、同年四月に再び増悪傾向となったものであるところ、控訴人は、昭和六二年一月及び二月には、前記帯状疱疹及び肝炎の入通院等につき外勤作業に従事しなかったが、同年六月までは右身体状況で右外勤作業に従事し、また、同年五月には、区民スポーツ大会のために、他の地域振興課あるいは安佐南区の職員と同程度の時間外勤務及び休日勤務を行い、さらに、同月には、新住居表示の実施に伴う業務が急増し、同年七月以降は、申し出により内勤作業に従事するようになったものの右のとおりの肝炎の増悪傾向を示したのである。そうすると、控訴人の肝炎が慢性化したことは、右の肝炎の発症と同様に過重な公務により自然的な経過を超えて肝炎が慢性化したものと認めるのが相当である。控訴人の昭和六二年九月以降の肝炎の増悪についてみれば、確かに控訴人は、同年七月以降、内勤作業に従事していたのであるが、右の経過をみれば、肝炎の右増悪は、肝炎が過重な公務により慢性化したことによる一連の病態としてとらえることができるのであり、右肝炎の増悪も右公務に内在する危険性が現実化したものというべきである。
 そうすると、控訴人の右肝炎の発症・増悪は、控訴人の従事した公務の危険性が現実化したものとして公務起因性を認めるのが相当である。