全 情 報

ID番号 07246
事件名 懲戒解雇無効確認等請求
いわゆる事件名 琉球バス事件
争点
事案概要  バス運賃横領を理由とする路線バス運転手に対する懲戒解雇につき、運賃横領の意思はなかったとして、右懲戒解雇が無効とされた事例。
参照法条 労働基準法89条9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為
裁判年月日 1998年12月2日
裁判所名 那覇地
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ワ) 75 
裁判結果 一部認容、一部却下(控訴)
出典 労働判例758号56頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕
 バスの運行中に運転手が横領の意思で運賃を領得したと認めるためには、運転手の行為が、受け取った運賃に対する被告の支配を排除し、自己の支配下に納めたものと認められるような程度に至っており、終点の営業所において被告に引き渡す意思のないことが客観的に認められるような状況が必要であるといえる。
 本件では、原告は、大腿部の下に一〇〇〇円札を挟んでいるが、自分のポケットにしまい込むような場合と異なり、原告が立ち上がれば一〇〇〇円が運転席に残されるものであることからすると、いまだ被告の支配を排除して原告の支配下に納めたと認められる程度には至っておらず、終点の営業所において被告に引き渡す意思がないことが客観的に認められるとまではいえない。
 そして、一〇〇〇円札は釣銭として不要であったとしても、釣銭として硬貨を保管しており、右硬貨は終点の営業所において被告に引き渡すことになるから、右硬貨とともに引き渡す趣旨で一〇〇〇円札を保管しておくことも不自然とはいえない。
 したがって、原告が一〇〇〇円札を四つ折りにして大腿部の下に挟んだことから、直ちに横領の意思を推認することはできない。〔中略〕
 (三) 運賃の収受はバス会社の経営の基盤となるものであり、運転手が運賃を横領することはバス会社の経営の基盤を脅かすものとなる。しかも、それだけでなく、運転手による運賃の横領は、公共的交通機関としての社会的信用性も失わせる結果につながるから、運転手としては、運賃の収受にあっては、細心の注意を払い、誤解のないようにしなければならないというべきである。その意味で、これまで認定した本件運行における原告の行為は、いささか軽卒(ママ)であったことは否めない。
 しかし、一方で、懲戒解雇処分は、従業員やその家族の生活に重大な影響を及ぼすものであり、懲戒解雇処分を行うには、特に慎重な手続と解雇事由の認定を要するというべきであるところ、本件では、被告において、運賃を乗客から直接受け取ることの禁止が必ずしも徹底されていなかったこと、したがって、FA運賃箱が正常に作動していない場合の運賃の収受方法については、手取りを含めてある程度運転手に委ねられていたこと、本件運賃箱が正常に作動していなかったこと、本件運行記録の記載内容が不正確であること、原告が本件調査の当初から一貫して横領の事実を否定しており、原告の本件運行に関する供述の内容が本件調査の当初からほぼ一致していることを合わせて考慮すると、本件調査の結果のみから、原告が運賃を横領したと認めることはできず、他に、右横領を認めるに足りる証拠はない。