全 情 報

ID番号 07263
事件名 退職金請求事件
いわゆる事件名 東京商工会議所事件
争点
事案概要  商工会議所の経営指導員が普通職員の退職制度の適用を受けることになり、退職金が過少となったとしてその差額の支払を請求したことにつき、その請求が棄却された事例。
 右の原告のうちの一名について、退職年金加入期間の計算に誤りがあるとして、その差額の支払が命ぜられた事例。
参照法条 労働基準法89条9号
労働組合法16条
労働組合法17条
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算
賃金(民事) / 退職金 / 退職年金
裁判年月日 1999年1月19日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (ワ) 16082 
裁判結果 一部認容、一部棄却(確定)
出典 労働判例764号61頁/労経速報1706号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 退職年金規程三二条一項の前記文言にかかわらず、退職年金規程を作成した被告だけでなく、その規律を受けるべき普通職員も、本俸を基礎として退職年金を算定することを認識し、これを受け入れてきたものということができる。すなわち、被告及び普通職員は、被告の就業規則(退職年金規程)上、本俸を基礎として退職年金を算定することが規定されているものと認識していたということができるから、退職年金規程三二条一項にいう「俸給月額」は、本来、右の一致した認識どおり、「(手当を除く)」という字句が付加され、「本俸」を意味することが明らかにされるべきであったが、過誤により、又はそのような付加がされなくても解釈上問題が生じることがないとの楽観的な判断によって、文言上それが明らかにされなかったものと解するのが相当である。
 三 争点2について
 1 争いのない事実等に、(証拠・人証略)を併せて考えれば、次の事実を認めることができる。
 (一) 昭和六〇年四月一日の給与規程の改正により、事務局員には、別表第一に定める給与表による第一本俸と、別途定められる第二本俸の合計額を俸給として支給されることとなり、俸給中に占める第一本俸の割合は従前の本俸のそれよりも大きくなって、退職年金算定に当たり従前の本俸を単純に第一本俸で置き換えると、退職年金が過大となるため、乗率の変更が必要となる関係にあった。
 一体化確認書は、昭和「六二年度を目途に新退職金制度を検討・実施する」が、経営指導員で新退職金制度の実施までに退職する者については、普通職員に適用される「現行規程を準用する」こととしており(一体化確認書1、(5))、その趣旨は、退職年金算定の基礎について、新退職金制度を検討・実施するまでの間、これを第一本俸に求めずに、従前の本俸とすることを含んでいた。
 (二) 普通職員との身分及び労働条件の一体化に伴い、経営指導員についても退職年金規程が準用されることになったため、「本俸」の金額を定める必要が生じた。経営指導員は、個別の条件によって俸給が調整されて決定されたため、従来の給与表に当てはめることは不可能であった。そこで、被告は、昭和六〇年三月末日の時点で普通職員の俸給に占める本俸と調整手当の割合を算出し、その割合を昭和六〇年三月末日時点での経営指導員の給与に乗じて一体化時点での本俸の金額を算定した。
 (三) 原告らの昭和六〇年四月一日時点での「本俸」は次のとおりとなり、これらの金額が退職年金算定の基礎となる標準報酬月額の基礎額となった。
 (1) 原告X1 一二万一〇〇〇円
 (2) 原告X2 一二万四七〇〇円
 (3) 原告X3 一一万六九〇〇円
 2 右各事実によれば、各原告に対する退職年金一時払金算定の基礎となるのは、一体化に際し被告が退職年金規程の標準給与月額算定の基礎として別途算定した本俸であると解するのが相当である。
〔賃金-退職金-退職年金〕
 四 原告X1の退職給与金の算定について
 1 争いのない事実等4及び6(一)(2)に、(証拠・人証略)を併せて考えれば、被告が原告X1の退職年金一時払金を算出するに当たって、退職年金加入期間を二八年としたのは、退職年金規程三四条が、加入期間の計算につき、一年未満の端数月は、定年退職の場合及びこれに準ずる場合はこれを切り上げることとしていることからすれば誤りであり、原告X1の退職年金加入期間は二九年とし、これに対応する加入期間別乗率も〇・五二五ではなく、〇・五五とすることが正しいことが認められるから、このとおり訂正して原告X1の退職年金一時払金を算出すると、次のとおり、七五二万八一八四円となる。
 9.4267×0.55=5.1847(小数点五位以下の端数を四捨五入)
 121,000×12×5.1847=7,528,184(円未満四捨五入)
 2 1に基づいて原告X1の退職給与金を算定し直すと、次のとおり一四〇六万九二六九円となる。
 (7,457,292+7,528,184)×0.03=449,564(円未満四捨五入)
 (7,457,292+7,528,184+449,564)×0.25=3,858,760
 7,457,292+7,528,184+449,564+3,858,760-5,224,531=14,069,269
 3 そうすると、原告X1は、一四〇六万九二六九円から全国商工会議所役職員退職年金共済制度規約(〈証拠略〉)三三条の二所定の退職年金選択一時金八四一万五三二二円(退職年金規程一〇条所定の退職年金一時払金相当額)を控除した残額である五六五万三九四七円を退職時に一時金として支給されるべきであったが、実際に支払を受けたのは五二一万三六七八円にとどまるから、原告X1の請求中右差額四四万〇二六九円の支払を求める部分は理由がある。