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ID番号 07290
事件名 損害賠償等請求事件
いわゆる事件名 沼津セクシュアルハラスメント(鉄道工業)事件
争点
事案概要  男性上司二人からセクシュアルハラスメントを受けた女性社員が解雇されたことにつき不法行為が成立するとされた事例。
 右セクシュアルハラスメントを行った上司二人に対し、女性の人格権を侵害したとして慰謝料の支払が命ぜられた事例。
 会社も職場環境調整義務を行った不法行為があるとして損害賠償の支払が命ぜられた事例。
参照法条 民法709条
民法710条
労働基準法2章
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / セクシャル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 職場環境調整義務
裁判年月日 1999年2月26日
裁判所名 静岡地沼津支
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ワ) 568 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例760号38頁
審級関係
評釈論文 水谷英夫・労働法律旬報1481号24~35頁2000年6月10日/林弘子・労働判例764号7~16頁1999年10月1日
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 原告は、本件解雇に至るまでの間、性的嫌がらせがあったことを訴えており、特に、A支店長がB常務から注意を受け、原告がB常務に電話をかけた直後に解雇の噂が出るようになり、間もなくしてA支店長から退職の勧告がなされたこと、本件解雇についての仮処分決定後とはいえ、被告会社は、本件解雇を撤回していることに照らすと、A支店長の右供述は採用できない。したがって、本件解雇は、解雇権の濫用であるというべきである。
〔労基法の基本原則-均等待遇-セクシャル・ハラスメント〕
 五 被告Y1の責任
 前記二認定の事実によれば、被告Y1は、原告の上司である地位を利用し、原告に対し、原告が入社した直後から交際を迫っていたこと、平成七年一二月五日の夜には、原告を誘って飲食をした後、原告の運転していた車の中で暴行を振るったこと、原告から付き合いを断られると、被告Y2とともに、原告とA支店長とが特別の関係にあるかのような噂を流したことが認められる。
 被告Y1の右行為は、職場での上下関係を利用して、異性の部下である原告の意思を無視して性的嫌がらせ行為を繰り返し、付き合いに応じない原告の職場環境を悪化させたものであり、原告の人格権を侵害するものであるから、原告の被った損害を賠償する責任があるというべきである。
 六 被告Y2の責任について
 前記三認定の事実によれば、被告Y2は、原告の上司である地位を利用し、平成七年一二月ころから平成八年三月ころまで、夜間、原告を頻繁に食事に誘い、原告の自宅にしばしば電話をかけたり訪問したりしたほか、原告の歓心を買うため様々なプレゼントをしてきたこと、さらに、その期間中、被告Y2は、熱海支店の廊下や階段で、原告に抱きつくなどの行為をしたこと、付き合いをしなくなった原告に対し、被告Y1とともに、前記噂を流し中傷したことが認められる。
 被告Y2の右行為は、被告Y1の場合と同様に、職場での上下関係を利用して、性的嫌がらせ行為等を行ったものであり、原告の人格権を侵害するものであるから、原告の被った損害を賠償する責任があるというべきである。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-職場環境調整義務〕
 七 被告会社の責任について
 前記四認定の事実によれば、被告会社は、被告Y1及び同Y2の使用者であり、同被告らの前記不法行為は同被告らの職務と密接な関連性があり、被告会社の事業の執行につき行われたものと認めるのが相当であるから、使用者として不法行為責任を負う。
 また、被告会社は、原告やA支店長に機会を与えてその言い分を聴取するなどして原告とA支店長とが特別な関係にあるかどうかを慎重に調査し、人間関係がぎくしゃくすることを防止するなどの職場環境を調整すべき義務があったのに、十分な調査を怠り、被告Y1らの報告のみで判断して適切な措置を執らず、しかも、本件解雇撤回後も、被告Y2の下で勤務させ、仕事の内容を制限するなどしたものであり、職場環境を調整する配慮を怠ったものであり、この点に不法行為があるというべきである。