全 情 報

ID番号 07302
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 ワタシン事件
争点
事案概要  (1)勤務時間中の競馬投票券の購入、(2)タイムカードの不正打刻、(3)通勤手当の不正受給、(4)多数の競馬ビデオやアダルトビデオを購入したこと等を理由とする懲戒解雇につき、いずれも理由がなく、解雇には価しないとされた事例。
 被告会社には、自己都合退職の場合、その一四日前までに退職届を出すことになっているが、短期雇用契約締結者には雇用期間の満了による退職だから適用されないとされた事例。
参照法条 民法1条3項
労働基準法2章
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 勤務成績不良・勤務態度
解雇(民事) / 解雇事由 / 不正行為
解雇(民事) / 解雇事由 / 企業外非行
退職 / 合意解約
裁判年月日 1999年3月19日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (ワ) 2783 
平成9年 (ワ) 12100 
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労経速報1707号17頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-勤務成績不良・勤務態度〕
〔解雇-解雇事由-不正行為〕
〔解雇-解雇事由-会社批判〕
 (四) 右によれば、原告X1が勤務時間中に勝馬投票券を購入したり、他の従業員も勧誘して勝馬投票券を購入させていたことを認めるに足りる証拠はないというほかなく、被告の主張は理由がないと言わざるを得ない。
 2 原告X2のタイムカードの不正打刻について
 被告は、原告X1が同X2のタイムカードを不正に打刻していた旨主張し、陳述書(書証略)にも同趣旨の記載部分がある。しかし、右陳述書の記載内容は抽象的でいつ、どのように不正打刻がなされたのか一切不明であり、これを裏付ける証拠もないことからすると、右陳述書の記載はにわかに信用することができず、他に被告主張の事実を認めるに足りる証拠もないから、被告の主張は採用できない。
 3 通勤手当の不正受給について
 (一) (書証略)及び原告X1本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
 原告X1は、昭和六三年五月九日に被告に入社し、当初二年間は電車とバスを利用して通勤していたが、勤務が深夜に及んで電車やバスの利用ができなくなることがしばしばあったことや、当時被告代表者であったA(以下「A」という)が車で本の仕入れをしてもらわなければならないので運転免許を取得するよう指示したこともあり、運転免許を取得し、平成三年一一月に自家用車を購入し、それで通勤するようになった。そこで、Aの妻で被告の経理を担当していたB(以下「B」という)に交通費の請求はどのようにすればよいか相談したところ、そのままでよいとの返答であったので、従来どおり月額一万一七一〇円を毎月二五日に給与と一緒に支給されていた。
 (二) 被告代表者は、その本人尋問において、Aが原告X1に車の免許を取得するよう指示したことはなく、Bも原告X1から通勤手当についての相談を受けたことはなく、両名に確認もしている旨供述するが、いずれも伝聞であって直ちに信用することはできない上、被告代表者は、駐車場で原告X1に会うなどして原告X1が自家用車で通勤していたことを知っていた一方、給与明細(書証略)は、被告代表者が記載しており、原告X1に従来どおりの通勤手当を支給していたことも知っていた(被告代表者本人尋問の結果)にもかかわらず、本件解雇までそのことを原告X1に対し、注意したり、指摘したりした形跡がない。これらのことからすると、被告代表者においても原告X1の通勤手当支給を認めていたものと推認することができる。また、被告代表者の陳述者(書証略)には、被告は原告X1に対し、燃料費を支給していた旨の記載があるものの、原告X1は明確に否認し(原告X1本人尋問の結果)、これを裏付ける証拠もない。
 したがって、原告X1は、被告との合意に基づいて通勤手当の支給を受けていたと言うべきであり、不正に受給していたということはできず、被告の主張を認めることはできない。
 4 多数の競馬ビデオやアダルトビデオの仕入れについて
 被告は、原告X1が独断で多数の競馬ビデオやアダルトビデオを購入した旨主張し、原告X1及び被告代表者本人尋問の結果によれば、競馬ビデオは二〇本ないし三〇本程度、アダルトビデオは新作を毎月一四本ないし一五本仕入れており、本件解雇当時在庫が約五五〇本あったことが認められるものの、右の本数が直ちに多数といえるのかどうか疑問であるし、原告X1及び被告代表者本人尋問の結果によれば、ビデオの仕入れについては、ビデオ部門の担当者と店長である原告X1に任されており、実際にも右両名が相談の上決定していたもので、原告X1の独断あるいは無断で仕入れたということはできないし、被告代表者の意に沿わない面があったとしても、ビデオ担当者と原告X1に任せていた被告代表者が競馬ビデオやアダルトビデオを多数仕入れたりしないよう指示した形跡もないことからすると、特段原告X1に責められるべき点はなく、被告の主張は採用できない。
 5 右のとおり、被告の主張はいずれも理由がなく、被告はさしたる理由もなく原告X1を解雇したものと言うほかなく、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当として是認することができないから、解雇権の濫用に当たり無効である。
〔退職-合意解約〕
 5 なお、被告は、その余の原告らの賃金を時給六五〇円として算出した理由について、その余の原告らが就業規則の規定に違反して、退職届提出後五日で退職してしまったペナルティであるかのような主張をし、確かに、被告の就業規則(書証略)には、自己都合退職の場合、その一四日前までに退職届けを提出しなければならない旨の規定(二五条)があり、就業規則違反が減給処分の対象となると解される規定(二二条、二三条)もある。また、解雇予告手当について短期雇用契約者に関する規定(二七条)があることからすると、直ちに就業規則は短期雇用契約者には適用されないと解することはできない。
 しかし、前認定のとおり、その余の原告らはいずれも短期雇用契約を締結した従業員であって、契約書(書証略)にも、雇用期間は一か月で終了すること、契約終了時、双方に再契約の意思があれば契約を継続することができることが明記されており、前記のとおり、契約を更新する場合はその都度契約書が作成されていたというのであるから、雇用契約期間中の退職であれば、就業規則を適用する余地があるとしても、契約書に定められた平成七年一二月二〇日の雇用期間満了をもって、その後その余の原告らが雇用契約を継続しなかったからと言って就業規則違反の問題は生じないのであって、この点に関する被告の主張は理由がなく、被告は未払賃金の支払を免れない。