全 情 報

ID番号 07305
事件名 遺族補償費等不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 茨城新聞社・水戸労働基準監督署長事件
争点
事案概要  高血圧症の基礎疾病がある新聞社の編集者が高血圧性脳出血で死亡したことにつき、遺族が右死亡は業務上のものであるとして労働者災害補償保険法による遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求したところ、労基署長が不支給の決定をしたため、その取消しが請求され、労基署長の決定が取り消された事例。
参照法条 労働基準法75条2項
労働基準法施行規則35条別表第1の2第1~8号
労働者災害補償保険法7条1項1号
労働者災害補償保険法12条の8
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
裁判年月日 1999年3月24日
裁判所名 水戸地
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (行ウ) 4 
裁判結果 認容(控訴)
出典 労働判例763号21頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
 一 業務起因性の判断基準
 1 労災保険法七条一項一号にいう「業務上の死亡」及び労働基準法七九条、八〇条にいう「労働者が業務上死亡した場合」とは、労働者が業務に基づく負傷又は疾病に起因して死亡した場合をいい、単に死亡の結果が業務遂行中に生じたとか、あるいは死亡と業務との間に条件関係があるというだけでは足りず、これらの間に法的にみて労災補償を認めるのを相当とする関係(相当因果関係)の認められることが必要である(最高裁判所昭和五〇年(行ツ)第一一一号・同五一年一一月一二日第二小法廷判決・裁判集民事一一九号一八九頁参照。)。
 そして、労災補償制度が業務に内在ないし随伴する危険が現実化した場合に労働者に発生した損失を補償するものであることに鑑みれば、右相当因果関係の有無については、発症が業務に内在ないし随伴する危険が現実化したことによるものとみることができるか否かによって判断するのが相当である(最高裁判所平成六年(行ツ)第二四号・同八年一月二三日第三小法廷判決・判例時報一五五七号五八頁、同平成四年(行ツ)第七〇号・同八年三月五日第三小法廷判決・判例時報一五六四号一三七頁参照。)。
 2 また、訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りるものであるから(最高裁判所昭和四八年(オ)第五一七号・同五〇年一〇月二四日第二小法廷判決・民集二九巻九号一四一七頁参照。)、厳密な医学的判断が困難であったとしても、被災労働者の業務内容、勤務状況、健康状態、基礎疾患の程度等を総合的に検討し、それが現代医学の枠組のなかで、当該疾患の形成及び発症の機序として矛盾なく説明できるのであれば、業務と発症との相当因果関係を肯定することができるというべきである。〔中略〕
 本件発症は、昭和六二年一〇月五日から本件発症までの間の業務によってもたらされた肉体的・精神的疲労の蓄積に基づく血圧の上昇によって生じたものであると認められ、本件発症と業務との条件関係を肯定することができる。そして、太郎の業務内容が肉体的・精神的に過重な業務であり、これが血圧上昇の最も有力な原因であったと是認しうるのであるから、本件発症は、Aの業務に内在する危険が現実化したことによるものと見ることができ、本件発症と業務との間に相当因果関係を認めることができるというべきである。
 3 この点、高血圧症の基礎疾病があったにもかかわらず、Aが仕事を優先して病院に通わなかったことや、昭和六三年二月以降における降圧剤の服用が十分でなかった可能性を業務起因性の判断においてどのように考慮すべきか問題となる。しかし、当時Aが出版センターにおいて中心的立場におり、Aが現場から離れて高血圧症の入院治療を受けるとなると、出版センターの業務全般に支障が生じる可能性があったことに鑑みると、Aが入院治療に踏み切れなかったのは、業務自体に起因したことであるというべきであるし、また、Aの疲労が本件発症当時かなりのものであったと認められることに照らすと、降圧剤の服用不十分の可能性が本件発症に与えた影響は、Aの業務のそれと比べれば、小さかったものと考えられるのであるから、いずれも前記相当因果関係を否定するに足りるものにはなり得ないといわなければならない。