全 情 報

ID番号 07313
事件名 退職金請求事件
いわゆる事件名 鶏鳴新聞社事件
争点
事案概要  新聞の発行等を行う会社の取締役であった者が退任し、在任当時従業員を兼務していたから従業員退職金を取得したとして、また、会社代表者との間で、退任時に、その時点で算定した会社代表者の退職慰労金の九割を支払う旨の合意があったとして右退職金等を請求して、いずれも理由なしとして棄却された事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法89条1項3号の2
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 退職慰労金
裁判年月日 1999年3月29日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ワ) 27866 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1711号23頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-退職金-退職慰労金〕
 1 従業員兼務について
 前記認定のとおり、〔1〕被告の退職手当規定上、取締役就任時には従業員としては退職することを前提とする退職金支給規定が置かれていること、〔2〕原告自身も取締役就任に際し、右被告退職手当規程に基づく退職金名目の金員の支払を受けていること、〔3〕原告は中小企業退職金事業団に対し、被告を退職したとして退職金受給の手続を行っていること、〔4〕原告は、取締役就任後、被告代表者の指揮命令を受けず、自ら経営判断を行い、実質的にも被告の経営の中心的な役割を果たしていたと認められること等の事実を総合すれば、原告は、取締役就任時に従業員としては退職したもので、被告代表者との間で使用従属関係にはなく、従業員を兼務しない取締役であったというべきである。
 これに対し、原告が、取締役就任後も、雇用保険料を控除されて納付したこと、諸手当の支給がされたこともあること(書証略)及び営業部長の肩書を使用していたこと等の事実も認められるが、雇用保険料を控除して支払ったことについては、被告が誤納付であったと申し立て、訂正が認められていること、手当が支給されたことについては、原告に対する報酬の支払は、支給額を被告代表者に対する支給額の九割とすることが基準とされており、手当の支払明細については実質的な意味のあるものではないと認められること(証拠略)及び営業部長の肩書の使用についても、被告の組織上、営業部という組織は存在しないこと等の事実に照らし、各事実から原告が従業員を兼務していたことを認めるには足りず、他に、本件記録上、原告が被告の従業員を兼務していた事実を認めるに足りる証拠はない。
 なお、原告は、当初、請求原因として、入社時から退職した平成八年六月まで継続して従業員の地位にあったから被告退職手当規程に基づいて算出した従業員退職金を有する旨主張していたが、右のとおり、原告の取締役就任後の従業員の地位は認められず、取締役就任時に従業員退職金は支払済みであるから、従業員退職金残金は存在しない。
 2 本件黙示の合意の存否
 原告は、被告代表者が、平成二年五月ころ、原告との間で、本件黙示の合意をした旨主張するが、前記認定のとおり、平成八年六月二七日の被告の株主総会において本件慰労金規定が制定されるまでは、被告に取締役に対する慰労金支給基準は存在せず、また、現に取締役を退任した者に対し、退職慰労金が支払われたことはなかったのであり、被告代表者が、自己の退職時に退職慰労金が支払われることを想定して、原告が取締役に就任した当時、原告の退職時点で、その時点における自己の退職慰労金相当額の九割を支払うとの合意をしたとは認められず、また、原告自身、取締役就任時に被告代表者との間で退職慰労金に関する話をしたことはなく、また当時考えたこともなかった旨述べているところであり(証拠略)、本件記録上、本件黙示の合意の存在を認めるに足りる証拠はない。
 3 原告の相当額の退職慰労金請求権の存否
 原告は、株主総会のした本件支給決議に基づく原告に対する退職慰労金額は不相当であるから、本件支給決議は無効であり、この場合、裁判所は、原告に対する相当額の退職慰労金額の支払を命ずることができる旨主張するが、株主総会決議をもって定めた取締役に対する報酬支給額が不相当で無効であるとして相当額の支払を命ずるような法律上の根拠は存在せず、原告の主張を採用することはできない。