全 情 報

ID番号 07322
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 河合楽器製作所事件
争点
事案概要  グループ企業間で行われる転籍(A社及びB社への転籍)命令を受けて就労していた労働者が、右転籍によって賃金及び退職金において不利益取扱いを受けることになったものであり、転籍に対する同意は、錯誤によるもので無効であるとして、元の会社(転籍前の会社)の従業員としての地位確認とその場合に受けるべきであった退職金とB社から受領した退職金との差額の支払等を求めたところ、右転籍は公序良俗違反、権利濫用に当たらないとして棄却された事例。
参照法条 労働基準法2章
民法625条1項
民法1条2項
民法1条3項
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 転籍
裁判年月日 1999年4月12日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 908 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1712号12頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-転籍〕
 被告は、Aに被告の電子楽器担当従業員を転籍させ、被告グループの電子楽器部門を集中、充実させることを計画し、被告の営業電子部電子課などを組織変更するとともに、同年五月から九月にかけて被告の営業電子課に所属する従業員ら三三名をAに転籍させることとし、原告もその対象となった。
 3 右転籍に際しては、全国の各支社において、転籍予定者に対する説明会が開催され、原告が当時所属していた関西支社(当時は大阪支社)においても、被告電子楽器事業部総括課長兼A総務課長C及び被告営業電子部のD次長が説明を行った。説明は、原告を含めた転籍予定者を一室に集めた形で行われ、その際、Cは、給与が転籍によって下がることはなく、また、Aは被告グループの中の優良企業であるから何も心配する必要はないとの趣旨の説明した。そして、原告は、右転籍に同意し、昭和四八年五月二一日Aに転籍した。〔中略〕
 原告は、本件転籍に当たっては、転籍者の将来にわたる労働条件すべてについて被告と同一の取扱いが保証されることが前提となっていたとも主張するようである。しかしながら、転籍とは、被告との雇用契約を解消し、あらたに別企業と雇用関係を結ぶことであるから、転籍が行われるにもかかわらず被告の労働条件が保証されるというためには、その旨の明確な特約の存在が必要であると解されるところ、前記認定のとおり、Cは、本件転籍に際し、給与その他の待遇が下がることはないこと、Aが被告グループの優良企業であり何ら心配がないこと等の説明をしたにとどまるのであって、右発言は、Aが解散するような場合も含め、転籍者の将来にわたる労働条件すべてについて被告と同一に取り扱うことを保証したものとは到底評価できないものである(なお、この点に関し、被告の出向・転籍規定(書証略)には、転籍は本人の利益に反しないと認められる場合に行うとの規定があるが、これも、転籍者の将来にわたる労働条件すべてについて被告と同一に取り扱うことを保証したものとまでは解されない)。〔中略〕
 前記認定の事実関係に照らせば、Aは、昭和四八年当時、被告の子会社ではあるが、現実に電子楽器の製造販売を行っていた実体のある会社であったこと、本件転籍は、電子オルガンの売れ行きが好調であったことから、Aの生産体制を強化するために行われたもので、転籍者はAにおいて永続的に業務に従事することが前提となっており、現実にも転籍者の大部分は埼玉県のA工場に勤務し、原告が大阪において引き続き勤務したのは、営業担当として大阪地区を引き続き担当することになったために過ぎないこと、原告の営業活動は、本件転籍後はAの名において行われ、業務上の指揮命令系統もA本社の指揮命令系統に属していたことが認められるのであって、本件転籍が何ら実体を伴わないものであるとはいえない。確かに、証拠(略)によれば、AやBの従業員についても、被告の従業員と共通した従業員番号が付され、転籍後の経歴も被告の社内歴として取り扱われるなど、被告においては、グループ会社間の転籍は、被告による一種の人事異動のように取り扱われていたことが窺われるけれども(書証略によれば、給与の支払事務も被告が一括して行っていたことが認められる)、グループ企業間の従業員の異動を親会社がその経営戦略に従って主導し、統一的に管理することは通常みられる現象であって、これが直ちに不当であるとはいえず、これにより、本件転籍が公序良俗違反や権利の濫用となるものではない。