全 情 報

ID番号 07331
事件名 労働者災害補償不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 帝都自動車交通事件
争点
事案概要  ハイヤー運転手が、走行中に意識を失い救急車で病院に搬送される途中で死亡したことにつき、遺族が右死亡に業務起因性があるとして、遺族補償給付等の不支給処分の取消しを求めたケースで、死亡原因となった特発性心室細動の発症はその人の内的基質によるものであり、業務起因性があるとはいえないとして棄却された事例。
参照法条 労働者災害補償保険法7条1項1号
労働基準法施行規則別表1の2第9号
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
裁判年月日 1999年4月28日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成5年 (行ウ) 22 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例766号30頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 Aは、心筋梗塞などの器質的な心疾患とは関係のない、特発性心室細動によって心臓突然死に至ったものと考えられる。〔中略〕
 特発性心室細動の発症は、外界の日常であるとか仕事であるとかの影響を受けない、その人の内的な基質に由来するものであるというのが現在の医学研究者における一般的な理解であり、特発性心室細動の基質を持つ者については、致死的不整脈を防止することは、植え込み型の除細動器を使用するほかないと考えられていることも、前記説示のとおりである。そうすると、Aの死因である特発性心室細動のこのような特質からして、Aの死亡と業務との事実的因果関係(条件関係)そのものを肯定することは困難であって、この点で、本件については業務起因性が否定されざるを得ないものというべきである。〔中略〕
 五月五日以降本件発症までの一三勤務日中、ハンドル時間が七時間を超えたのは四勤務日に過ぎず、また、二連続勤務の両勤務日ともハンドル時間が七時間を超えた五月八、九日の勤務についてみても、証拠(〈証拠略〉)によれば、二日目の業務はゴルフ場への送迎業務であり、乗客のプレー終了までの間、約八時間三〇分の待機時間があったことが認められるから、この間の勤務状況は、全体として必ずしも高い労働密度であったわけではなく、本件発症当日についても、二連続勤務の二日目で、前日の勤務との間に十分な仮眠を取るだけの休息時間があったとはいえないものの、前日のハンドル時間は断続的に五時間と短く、本件発症当日の業務もゴルフ場への送迎業務であり、ゴルフ場までの四時間余りの運転を終えた後は、帰路につくまでの約八時間の間、前記のとおり、ゴルフ場の運転手控室などで休息することはAの自由に任されていたのである。
 このような事実関係の下では、本件発症前のAの業務をもって過重というにはいまだ足りないものであって、この点からも、本件については、Aの死亡について業務起因性を肯定することは困難であるといわざるを得ない。