全 情 報

ID番号 07332
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 茨木高槻交通(賃金請求)事件
争点
事案概要  労働時間の短縮に伴う賃金の減額を内容とする新たな賃金協定が締結され、右協定締結に反対意思を表明していた労働者が、右協定は労働者に規範的効力を有しない、右協定に基づく賃金引下げは公序良俗に違反する等として引下げ前の協定との差額賃金を請求したところ、右協定は反対意思を表明していた労働者にも規範的効力を有する、賃金引下げは公序良俗に違反しないとして棄却された事例。
参照法条 労働基準法2章
労働組合法16条
労働組合法14条
体系項目 解雇(民事) / 変更解約告知・労働条件の変更
裁判年月日 1999年4月28日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 4148 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例765号29頁/労経速報1724号3頁
審級関係
評釈論文 原俊之・労働法律旬報1484号29~35頁2000年7月25日
判決理由 〔解雇-変更解約告知・労働条件の変更〕
 本件協定及び本件確認が労働組合法一四条及び一六条にいう労働協約に該当することは明らかである(このことは原告らも認めるところである)。
 そして、本件協定及び本件確認は、乗務員の労働時間の短縮とそれに伴う賃金の減額を内容とするものであるから、原告ら全自交高槻組合員の労働条件を不利益に変更する部分を含んでいることもまた明らかである。
 ところで、労働組合は、組合員の利益を全体的かつ長期的に擁護しようとして使用者と団体交渉を行い、労働協約を締結するものであるから、締結された労働協約が、組合員の従前の労働条件を将来に向かって不利益に変更するものであったとしても、そのことから直ちに当該不利益変更部分が無効となると解するのは相当でない。むしろ、当該協約事項が、労働協約の対象となるものである以上、個々の組合員が既に取得している具体的な請求権を放棄する等の特殊な場合を除き、不利益な協約であっても、組合内での協議を経るなどして集団的な授権に基づいて締結されたものである限り、これに反対し、労働条件を不利益に変更された組合員に対しても規範的効力を及ぼすものというべきである。〔中略〕
 本件協定は、全自交高槻の全組合員に適用される労働時間短縮とそれに伴う賃金減額について、組合執行部が被告と協議して得た最終回答が組合の批准集会に諮られ、その際、A型賃金適用者に対する賃金条件の一部(歩合給の足切額)が未定であったにもかかわらず、それについては執行部の今後の交渉努力に委ねることとして、右最終回答のまま多数で可決され、これに基づいて締結されたものである。また、本件確認も、その具体的内容については組合内での決議等の手続をとることなく、最終合意が報告されたのみで確認書の調印に至ってはいるが、本件協定の内容をなす時間短縮に伴う賃金減額(歩合給の足切額確定)の問題であって、もともとは本件協定の一部をなす、これと一体のものというべきであり、批准集会では、執行部の交渉努力を予定し、未定のまま本件協定締結が議決されたのであるから、本件確認の内容確定については執行部に委任されていたものと解される。そうすると、本件協定及び本件確認はいずれも、右批准集会において形成された組合決議に基づいて締結されたものと認められる。
 原告らは、これに反対意思を表明しているが、全自交高槻は、原告らに対し、不服であれば、組合を離れて交渉するよう通告したにもかかわらず、原告らは、その後も別組合を結成して独自交渉をするなどはしていないのであるから、全自交高槻執行部が交渉を継続することを黙示に承認していたものというほかない。
 以上によれば、本件協定及び本件確認はいずれも、組合決議を経て、その授権に基づいて締結されたものであって、それに反対した原告らに対しても規範的効力を及ぼすものというべきである。〔中略〕
 原告らは、本件協約及び本件確認は、原告らの賃金を大幅に減少させるという結果の重大性並びに被告及び全自交高槻執行部(A委員長)が原告らに対する嫌がらせのために行ったという目的の不当性からして、公序良俗に反し無効であると主張する。
 しかしながら、第一に、賃金減額ということ自体からして公序良俗に反するということはできないし、原告らの主張では、減額は約一三パーセントというのであり、原告らが新賃金条件の下で現に支給を受けている賃金額(別紙新旧賃金計算表)からしても、およそ、提供する労務との均衡を欠いた不当なものとまでいうことはできないのであって、結果の重大性から公序良俗に反しているということはできない。