全 情 報

ID番号 07368
事件名 地位保全等仮処分申立事件
いわゆる事件名 ナカミチ事件
争点
事案概要  ホームオーディオ機器等の製造販売を業とする会社で技術系の従業員として雇用されていた者が、経営上の理由で整理解雇されたのに対して、右整理解雇は整理解雇回避努力が尽くされておらず違法であるとして地位保全等の仮処分を申立てたケースで、整理解雇回避の努力は十分尽くされており、解雇は有効であるとして申立てが却下された事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
裁判年月日 1999年7月23日
裁判所名 東京地八王子支
裁判形式 決定
事件番号 平成10年 (ヨ) 670 
裁判結果 却下
出典 労働判例775号71頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 本件解雇は、やむを得ない業務の都合による解雇、いわゆる整理解雇としてなされたのであるが、整理解雇の場合、
 (一)人員削減の必要性が存したか、(二)削減対象者選定は相当であったか、(三)解雇を回避するための努力が十分に尽くされたか、(四)解雇に至るまでの手続は相当であったかの要件が充足されるべきであるから、以下、各要件につき検討し、もって、本件解雇が、雇傭契約上の信義則に照らして、解雇権の濫用に該当するか否かを判断することとする。
〔解雇-整理解雇-整理解雇基準〕
 前記疎明に係る債務者における経営合理化の経緯よりすれば、債務者は、いまや、企業としての機能を維持保全するのに必要最低限の人員を保有しているにすぎないことが窺われるところ、一層の人員削減の必要に迫られ、各部門につき子細に不要業務の見直しを行い、その結果、債権者らが所属していた各部門が縮小・廃止の対象となったものであるから、右経緯よりして人員削減対象者の選定の基準が債務者にとっての必要性及び効率にあることは自ずと明らかであって、右基準が明示されていないことをもって、直ちに雇用契約上の信義則に反するものということはできない。
 この点につき、債権者Aは、陳述書(人証略)において、自分にはプログラム開発の能力がある旨陳述しているが、その当否はさておき、本件解雇当時、債務者の経理部情報システム・データ管理グループにおいて、プログラム開発業務を担当していたのが債権者A以外の二名の正社員であったのであるから、債務者がより高度な業務を担当していた者を残留させ、縮小ないし廃止する業務を担当していた同債権者を消滅対象者に選定したことに格別不合理な点は見い出し難い。
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 債務者は債権者らをそれぞれの所属部門において余剰人員と判断した後も、債権者らの配置転換の可能性を模索し、債権者らの能力に対する評価を基礎に、他部門への配置転換のみならず、子会社(B会社の青森工場)への転籍や外注業務(警備業務及び清掃業務)の社内への取入れをも検討した末、これらがいずれも困難であると判断して債権者らの解雇を決定したのであり、右決定に至る過程に照らすと、本件解雇においては、雇用契約上の信義則により要求される解雇回避のための努力は十分に尽くされたというべきである。〔中略〕
 債務者が新規採用者の募集を行っている点については、特別の専門知識や技術を有する者を補充するための募集あるいはコストの安いアルバイト従業員の募集採用にすぎないものと認められ、前記のとおり、債務者が高度な専門知識・技術を有する技術開発者の集団たることを経営方針として最低限度必要な人員を保有するにすぎないことに照らすと、債務者において一般的な希望退職者を募集し、あるいは、特定の採用目的に沿った従業員の新規採用を停止することは、ともに企業としての機能保持のため必要な人材の確保を阻害し、企業としての機能不全をもたらすおそれがあるといえる(債権者らは、企業の機能保持のために必要な人材を確保するためには、有利な雇用条件を提示すればよい旨主張するが、現在の債務者の経営状態を考慮すれば、右主張は無理難題といわざるを得ない)。
 したがって、債務者が債権者ら指摘に係る前記の各雇傭調整策を実施することを、本件解雇を回避のために必要不可欠なものとして要求することは、適当でないというべきである。〔中略〕
 使用者が労働者を整理解雇するに当たっては、当該解雇を回避するための努力が十分に尽くされなければならないとはいえ、労働時間の短縮、新規採用停止、希望退職者の募集、派遣社員等の人員削減、従業員に対する再研修等の措置が常に必要不可欠な解雇回避措置として求められるものではなく、いかなる措置が講じられるべきかについては、企業規模、経営状態、従業員構成等に照らし、個別具体的に検討されるべきものと解されるところ、債権者らが指摘する各解雇回避措置は、いずれも、本件解雇を回避するための措置としては不適当であるか、あるいは現実性に欠けるものといわざるを得ないから、債務者が本件解雇を回避するための努力を十分に尽くしたとはいえない旨の債権者らの主張を採用することはできない。