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ID番号 07384
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 近鉄百貨店事件
争点
事案概要  勤務態度、勤務成績が悪いこと、改善がみられないことを理由として部長待遇職から課長待遇職に降格された百貨店従業員が、右降格を不法行為に当たるとして損害賠償を請求したケースで、会社にも責められるべき点があり、平成八年七月下旬以降、勤務態度も改善されつつあったこと等を理由として、降格は人事権の濫用に当たるとして損害賠償が一部認容された事例。
参照法条 労働基準法2章
民法709条
体系項目 労働契約(民事) / 人事権 / 降格
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 1999年9月20日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 3021 
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労経速報1714号14頁
審級関係
評釈論文 緒方桂子・平成12年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊1202〕220~221頁2001年6月
判決理由 〔労働契約-人事権-降格〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 原告は、平成六年二月ころ、ショップ奈良での勤務中、接客カウンターでテレビを見たり、新聞を読んだりして顧客から苦情を受けたり、平成七年四月に外商本部庶務部事務一課に配転となった後、上司との間の人間関係に円満を欠いたり、平成八年三月に外商本部外商企画部ショップ事業統轄課では、同年七月下旬ころまで指示されたショップ巡回業務をほとんどしていない等、勤労意欲を喪失していた面もあった点を除けば、部長待遇職となった以降も、本件降格まで、指示された業務を一応遂行していたといえる。その業務遂行状況は、被告が期待する程度に至ってないとはいいうるものの、部長待遇職となってその手足となる部下もなく、それぞれの業務の従事期間が短いことからすると、被告の期待は過大なものというべきであり、原告に職務の怠慢があったとまではいえないところである。
 しかるに、被告は、平成八年九月、原告に対して本件降格を行った。確かに、被告には昇進、降格という人事権の行使について一定の裁量が認められるものの、本件降格は給与が一か月四万八〇〇〇円減額されるという不利益を原告に与えるものであるうえ、待遇職は管理職ではないことから、その昇進、降格についての被告の裁量は管理職についての昇進、降格のそれと比較すれば狭く解するべきである。そして、本件降格は、部長待遇職への降格時から二年余りという短期間で行われたものであり、その間、原告は四か所もの配転を受け、外商本部庶務部の部長としてそれなりの業績を上げてきた原告に対し、部長待遇職となって以降奈良店においてサロン裏の席に配置したり、外商本部庶務部事務一課で末席しか与えないなどの被告の措置により、原告は勤労意欲を失い、上司との人間関係を悪化させたのであり、被告にも責められるべき点があること、本件降格前の平成八年七月下旬以降は、原告の勤務態度も改善されつつあったことなどの諸事情を考慮すれば、原告の勤務態度、勤務成績が悪いことと、その改善がみられないことを理由とする本件降格は、人事権の裁量の範囲を逸脱し、これを濫用した違法なものといわざるをえず、原告に対する不法行為を構成するとするのが相当である。