全 情 報

ID番号 07406
事件名 雇用契約上の地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 フットワークエクスプレス懲戒解雇事件
争点
事案概要  貨物自動車運送等を業とする会社Yの支店長であったXが、同支店の正社員である運転手Aら四名が、物販チラシの配布枚数、集荷枚数等の過当計上を行い、能率手当及び時間外手当を不正に受給していたという事実の発覚後、配布枚数の件についてはXの指示によるものであったこと、それ以外についても、XのAに対する説明不足で生じたものであることを認める始末書を提出した(Yが被った損害は既にAらから回収済み)が、賞罰委員会の決定により、就業規則の規定(故意又は重大な過失により会社に損害を与えた場合、不正な方法で会社の公金又は物品を私消し、或いは持ち出し又は持ち出そうとしたとき、及び不正な方法で詐取し又はこれを幇助したとき懲戒解雇する旨)に基づいて、懲戒解雇された(Aらは懲戒処分がなされていない)ことから、本件懲戒解雇は、解雇事由に該当する事実がなく、不公正な手続によるもので(懲戒解雇について行政官庁の認可を受ける旨の就業規則の規定が守られていない等)、合理性もないとして、(1)主位的に、雇用契約上の地位確認と、賞与及び賃金の支払、(2)予備的に、懲戒解雇が有効とされた場合に退職金の支払(控訴審で追加)を請求したケースの控訴審で、原審はXの請求を棄却していたが、本件不正受給のうち、Xが指示及び放置した手段によるものは私利が目的でなくXなりの労務管理対策であったと推認できること、損害の填補がなされていること、主犯のAらが不処分であることとの均衡等を考慮すれば、Xを解雇するのが相当であるとしても、諭旨解雇、通常解雇の方法もあることから、七一六万円の退職金を奪ってまで懲戒解雇するのは懲戒解雇権の濫用であり、就業規則の規定による行政官庁の認定の手続を欠いている点においても、本件懲戒解雇は無効であるとしてXの控訴が認容され、原審が取り消された事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
労働基準法20条3項
労働基準法19条2項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒手続
裁判年月日 1995年10月25日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (ネ) 946 
裁判結果 取消(上告)
出典 労働民例集46巻5・6号1351頁
審級関係 一審/06255/京都地/平 6. 3.15/平成4年(ワ)3229号
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕
 本件不正受給のうち、控訴人が指示及び放置した手段によるものは私利が目的でないことからすると、控訴人なりの労務対策と推測され、したがって、動機において汲むべき点がないではなく、損害の填補もなされ、主犯であるAらには懲戒解雇は勿論何の懲戒処分もされていないことの均衡をも考慮すべきほか、控訴人を懲戒解雇に処することは、退職金の受給資格を剥奪して控訴人の入社以来の功績を無にするに等しいといえる。
 乙四号証と弁論の全趣旨によると、被控訴人の就業規則には、懲戒は譴責、減給、下車、出勤停止、降職、諭旨解雇、懲戒解雇の七種とし、諭旨解雇は説諭のうえ、解雇し、退職金は基準支給額(自己都合)の五〇パーセントにとどめ、懲戒解雇の際は退職金は不支給とするとし、懲戒解雇の基準に適合するときでも、その情状により諭旨解雇、降職にとどめることができ、また懲戒解雇、諭旨解雇の基準に該当するときでも通常解雇をすることができ、懲戒によって損害賠償義務が免除されるものではないと定めていることが認められる。
 控訴人の行為は就業規則の懲戒解雇基準に該当するものではあるが、右の事情を考慮すると、控訴人を解雇するのが相当であるにしても、諭旨解雇、通常解雇の方法もあるのであって、右のとおりの種々の情状の存する控訴人に対し、七一六万円もの退職金を奪ってまで懲戒解雇するのは懲戒解雇権の濫用とする他はない。したがって、被控訴人が控訴人に対してした懲戒解雇、予備的懲戒解雇は無効である。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒手続〕
 被控訴人の就業規則一四〇条七号は、「懲戒解雇は原則として行政官庁の認定を受け、予告せず解雇し、退職金は不支給とする。」と定めていることが認められる。
 この就業規則にいう「行政官庁の認定」とは、労働基準法二〇条三項、一九条二項の「行政官庁の認定」をいうものと解される。同法の行政庁の認定を受けるのは使用者の行政上の義務であって、これを欠いているだけでは解雇は私法上無効とはならない。しかしながら、本件のように就業規則でこれが解雇の前提として定められた場合は同様に解することはできない。労働基準法の右条項は使用者と国との関係を規制するものであるが、就業規則は使用者と労働者との私法関係を規制するのが本来の目的であるから、就業規則の定め、本件では解雇に先立ち行政官庁の認定を受けるべきことも、使用者(被控訴人)と労働者(控訴人)との私法関係を定めたものと解すべきであって、この認定を欠いた解雇は無効とするのが相当である。