全 情 報

ID番号 07426
事件名 懲戒戒告処分裁決取消請求事件
いわゆる事件名 人事院(全日本国立医療労組)事件
争点
事案概要  国立病院及び国立療養所Yに勤務する看護婦、看護助手、医事係長等で全日本国立医療労働組合(全医労)の役員であったXら一二名が、昭和四〇年に人事院が行った判定(月間平均勤務日数八日、一人夜勤の計画的廃止)が二六年経過しても達成されていないとして、看護婦増員五千名の早期実現等を要求して、全国で約二万五千名の組合員が参加して実施された勤務時間に最大で二七分間食い込む職場大会の実施につき、その遂行を共謀し、組合員に参加を呼びかけた行為等が国家公務員法九八条二項に違反し、いずれも同法八二条一号に該当するとして、懲戒戒告処分を受け、これを不服とする再審査請求も棄却されたことから、Xらの処分は違憲であり、懲戒権濫用で無効であるとして、Y院長及び人事院に対して右処分及び審査請求を棄却した各裁決の取消しを請求したケースで、(1)国家公務員法九八条二項は合憲であるとしたうえで、右規定に違反するとしてなされたXらに対する懲戒処分に違法はないとし、(2)本件人事院判定は行政措置要求制度の代償措置としての本来の機能は本件職場大会当時においてもなお失われてはおらず、また本件職場大会は相当な手段、態様でなされたものとはいえないこと等から、本件職場大会は憲法上保障された争議行為であるとはいえないとし、(3)Xらに有利な事実を考慮しても、本件懲戒戒告処分は社会観念上著しく妥当を欠いてその裁量権を濫用したものと評価することはできないとして、請求が棄却された事例。
参照法条 国家公務員法98条2項
行政不服審査法41条1項
国家公務員法82条1項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒手続
裁判年月日 1999年4月15日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (行ウ) 277 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 時報1724号133頁/タイムズ1040号169頁/労働判例761号26頁
審級関係
評釈論文 岡村親宜・労働法律旬報1505号50~54頁2001年6月10日/渡辺賢・平成11年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊1179〕225~227頁2000年6月
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 原告らは国公法九八条二項が憲法二八条に違反して無効である旨主張するが、国公法九八条二項が憲法二八条に違反するものではないことは、最高裁判所が全農林警職法事件判決において判示しており、さらに、国家公務員に対する懲戒処分の適法性の判断に当たっても同様に解すべきことが確認されているところであり(最高裁判所昭和五二年一二月二〇日第三小法廷判決民集三一巻七号一一〇一頁、昭和六〇年一一月八日第二小法廷判決民集三九巻七号一三七五頁)、当裁判所もまた右判断を相当と思料するものであるから、原告らの右主張は採用することができない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 国家公務員について国公法に定められた懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか及び懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは懲戒権者の裁量に任されており、懲戒権者が右裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量の範囲内にあるものとして違法とはならないと解すべきである。したがって、裁判所が右の処分の適否を審査するに当たっては、懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものである(最高裁判所昭和五二年一二月二〇日第三小法廷判決(民集三一巻七号一一〇一頁)、最高裁判所平成元年九月二八日第一小法廷判決(判例時報一三四九号一五一頁))。
 そこで、右の見地に立って、本件各懲戒処分が社会観念上著しく妥当性を欠き、裁量権を濫用してなされたものと認められるか否かについて検討する。〔中略〕
 全国の国立病院等の支部において、組合員約二万五〇〇名が参加して、勤務時間に約二九分以内食い込む方針で職場大会を開催し、そのうち、少なくとも二九三四名の職員が、当日勤務義務を有するにもかかわらず、最大で二七分間勤務に就かず、集団的に職場を離脱したというものであって、規模が大きく、また、午前八時三〇分の勤務開始時刻から最大で二七分間勤務に就かなかったというのであるから、国立病院及び国立診療所での診療を必要とする国民に何らの支障が生じなかったものとは認めることができず、その間国民の健康にかかわる医療に従事する職責を果たさなかったことを軽視することはできないこと、本件職場大会が当局の数度にわたる警告を無視してあえて行われたものであること、原告X1外八名が本件職場大会への単純参加者ではなく、全医労の副委員長、中央執行委員、中央闘争委員として本件職場大会の企画、立案や組合員への参加を呼び掛けるなどの行為を行うなど、本件職場大会の実施に積極的に関与し、指導的な役割を果たしたものであるから、その責任を追及されてもやむを得ないものであること、戒告処分が国公法の定める懲戒処分の中で最も軽い処分であることを考えると、本件職場大会当時、昭和四〇年人事院判定がいまだ完全には実行されず、長年にわたって延引していた状況にあり、本件職場大会実施の目的、動機自体は無理からぬ点がある相当なものであること、本件職場大会が比較的短時間で終了し、暴力的手段を伴うものではなかったこと等の原告らに有利な事実を勘案しても、懲戒権者である被告処分者らが、原告X1外八名を戒告処分としたことが、社会観念上著しく妥当を欠いてその裁量権を濫用したものと評価することはできない。
 原告らが本件職場大会への単純参加者ではなく、全医労の各支部長として組合員への参加を呼び掛けるなどの行為を行うなど、本件職場大会の実施に積極的に関与し、指導的な役割を果たしたものであるから、その責任を追及されてもやむを得ない面があること、戒告処分が国公法の定める懲戒処分の中で最も軽い処分であることを考えると、本件職場大会当時、昭和四〇年人事院判定がいまだ完全には実行されず、長年にわたって延引していた状況にあり、本件職場大会実施の目的、動機自体は無理からぬ点がある相当なものであったこと、原告X2、同X3及び同X4の各職場における職務放棄の態様、時間は前記のとおりであって、比較的短時間で終了し、暴力的手段を伴うものではなかったこと、本件各懲戒処分に至るまで職場大会を理由としてされた処分の内容が前記のとおりであったこと等の原告X2、同X3及び同X4に有利な事実を勘案しても、懲戒権者である被告処分者らが右原告三名を戒告処分としたことが、社会通念上著しく妥当を欠いて裁量権を濫用したものということはできない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒手続〕
 行政不服審査法四一条一項は裁決には理由を付すべき旨を規定している。これは、裁決における判断を慎重ならしめ、その公正を保障するとともに裁決の対象となった処分についての審査請求人の不服事由に対する審査機関の判断を明確にするためであるが、審査機関が審査請求人の不服の事由の一部について判断していなかったとしても、そのことから直ちに当該裁決が違法となるものではなく、審査機関が理由中で判断を示さなかった事項が裁決に影響を及ぼすべき重要な事項であって初めてその事項について審査機関が判断を示さなかったことが当該裁決の違法原因となると解するのが相当である。