全 情 報

ID番号 07439
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 東洋学園事件
争点
事案概要  高校及び専修学校を設置する学校法人Yが設置する専修学校の社会科教諭Xが、生徒に三学期単位認定試験の答案の採点をさせたため、本件試験は改ざんの可能性があるとして無効とするなどの一定の措置が執られたが、(1)右行為及び(2)Y所有の不動産に一〇九億円もの根抵当権が設定されていると虚偽の事実を吹聴したことを理由に就業規則の規定に基づいて解雇されたため、本件解雇は解雇理由がなく解雇権の濫用であり、また組合活動を嫌悪した不当労働行為であるとして、雇用契約上の地位確認及び賃金支払を請求したケースで、(2)の解雇事由とされている事実は認められないが、(1)の行為は極めて重大な義務違反行為であることから、本件解雇は社会通念上相当であり、また本件解雇において不当労働行為の意思は認められないとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 不正行為
裁判年月日 1999年7月28日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ワ) 5840 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1729号3頁
審級関係
評釈論文 星野豊・月刊高校教育37巻1号68~73頁2004年1月
判決理由  原告は、被告がその所有不動産に一〇九億円の抵当権を設定していると誤解し、その誤解に基づいてAにその旨話したものであるが、他方、原告は同時に団体交渉によって真相を明らかにしたいと述べているのであるから、必ずしも被告が経済的に破綻していると断定する趣旨の発言を行ったものとはいえない。そして、A以外の人物に伝播することで被告の信用等が毀損され、職員の間に混乱が生じたとの事実についてはこれを認めるに足りる証拠はない。従って、右認定によれば、原告の根抵当権に関する発言は、被告の名誉、信用を傷つけたものとはいえず、また被告の内部事情をみだりに外部に公表、漏洩したものとはいえない。
〔解雇-解雇事由-不正行為〕
 原告は、採点は生徒から頼まれて教育的配慮からさせたものであること、答案を預けていた時間も一〇分程度で生徒が採点した枚数も一〇枚程度であること、採点をさせた生徒が信頼できる者達だったので改ざんのおそれはなかった旨主張する。
 しかし、生徒から頼まれて採点をさせたもので、その時間も一〇分程度であるという原告の弁解は前記認定の事実に反し採用できないところである。また、本件試験が本件学校及びB高等学校における単位認定のためのものであり、評定においても試験の素点が六五パーセントを占め生徒の将来の進路にも影響のある重要なものであること、試験の結果が受験した生徒のプライバシーに関わるものであることからすると、原告の行為は右のような教師としての基本的な責務を放棄する重大なものである。原告は、自ら頼んで採点させながら生徒から頼まれたなどと弁解しているのであるが、このような態度からすると、原告は、その行為の重大性を認識しないものといわざるを得ず、本人尋問における反省の弁も必ずしも信用することができない。〔中略〕
〔解雇-解雇事由-不正行為〕
 原告が主張する事実は、いずれも解雇権の濫用を基礎付ける事実とは言い難い。本件試験が、生徒にとって極めて重要なものであることは前述のとおりであり、このような重要な試験の答案を厳正・中立に採点することは、教師としての最も基本的かつ重要な責務であるから、原告が、生徒に本件試験の答案を交付して原告の監視のない状態で採点をさせた行為は、極めて重大な義務違反行為である。してみれば、本件解雇の事由として掲げられている本件解雇事由(二)についてはこれを認めることができないものの、本件解雇事由(一)のみをもってしても、これを理由としてなされた本件解雇が、著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないとはいえず、解雇権の濫用にはあたらない。