全 情 報

ID番号 07444
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 鈴蘭交通事件
争点
事案概要  タクシー会社Yのタクシー乗務員で、労働組合の組合員又は組合員であったXら一三名が、Yでは、月例賃金及び一時金について、Yと労組間で平成五年に労働協約(本件協約)が締結されたが、当時運賃改定が予想されていたことから、運賃改定があったときは新労働協約を締結することとして、協定書には「現行運賃における労働条件に関し」定める旨が明記されていたところ、同年に、第一次運賃値上げ改定がなされ、それに伴う賃上げについて何度も団体交渉がなされたにもかかわらず新労働協約の妥結には至らなかったため、右運賃改定以降も、本件協約に基づいて月例賃金及び一時金が支払われていたが、平成七年には、Yから労組に対し、主位的に第一次運賃改定により本件協約が失効、予備的に本件協約の解約を告知する旨の通告書が交付され、同年末から、組合員について本件協約の支給基準よりも低い基準に基づいて一時金が支給されるようになり、更に平成九年になされた運賃の値上げ変更に伴う賃金体系の変更についてもYと労組は合意に至っていなかったところ、本件協約の基準による支給歩合率をその所定労働時間数で除し、これに新所定労働時間数を乗じて算出した支給歩合率による月例賃金が支給されるようになったことから、本件協約の支給基準による計算額から既払金を控除した額を請求したケースで、本件協約は第一次運賃改定の実施をもって終了し、その後、Yと労組間で、新労働協約提起までの間、本件協約の支給基準による旨の延長合意をしたものと認められるものの、平成七年のYの解約告知により、告知九〇日経過後、本件協約は失効したものであるが、労働協約失効後については、XY間の労働契約の内容を補充するものとして、就業規則等の補充規範足り得る合理的基準がない限り、従前妥当してきた本件協約の月例賃金及び一時金の支給基準がXY間の労働契約関係を規律するものと解するのが相当であるとして、請求が認容された事例。
参照法条 労働基準法11条
労働組合法16条
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 賃金の計算方法
裁判年月日 1999年8月30日
裁判所名 札幌地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 123 
裁判結果 認容(確定)
出典 タイムズ1037号159頁/労働判例779号69頁
審級関係
評釈論文 奥泉尚洋、竹之内洋人・労働法律旬報1469号52~53頁1999年12月10日/山下幸司・労働判例百選<第7版>〔別冊ジュリスト165〕214~215頁/山下満・平成12年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊1065〕398~400頁2001年9月
判決理由 〔賃金-賃金請求権の発生-賃金の計算方法〕
 前記のとおり、被告は、平成七年一一月一六日、自交総連労組に対し、所定の手続により本件協約の解約告知をしたことが認められるから、その九〇日後である平成八年二月一四日の経過をもって、本件協約は失効したものというべきである。
 4 次に、本件協約自体が失効しても、その後も存続する原被告間の労働契約の内容を規律する補充規範が必要であることに変わりはなく、就業規則等の右補充規範たり得る合理的基準がない限り、従前妥当してきた本件協約の月例賃金及び一時金の支給基準が、原被告間の労働契約を補充して労働契約関係を規律するものと解するのが相当であり、他に補充規範たり得る合理的基準は見出し難い。〔中略〕
〔賃金-賃金請求権の発生-賃金の計算方法〕
 1 被告は、原告らに対し、平成七年末分からの一時金について、本件協約の支給基準どおり支払っていないものであるが、争点1で説示したとおり、平成八年二月一四日までは本件延長合意により本件協約の支給基準の効力があり、その後においては原被告間の労働契約の内容を補充するものとして右支給基準が適用されるものであるから、いずれにしても、被告は、原告らに対し、右支給基準に基づき、平成七年末からの一時金を支払うべきである。〔中略〕
〔賃金-賃金請求権の発生-賃金の計算方法〕
 月例賃金についても、平成八年二月一四日までは本件延長合意により本件協約の支給基準の効力があり、その後においては原被告間の労働契約の内容を補充するものとして右支給基準が適用されるものであるから、いずれにしても、被告は、原告らに対し、右支給基準に基づき月例賃金を支払うべきである。