全 情 報

ID番号 07453
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 インドセクハラ事件
争点
事案概要  インド系銀行Y1の女性従業員X1及びX2が、Y1の日本支店の支店長でありかつ日本における代表者であるY2から、X1は、業務時間中に内線電話を用いて支店長室へ呼び出されて、社宅(家族が来日するまでの半年間は単身赴任であった)に来て日本語を教えて欲しいと頼まれ、断りきれずにY2の社宅を訪問したところ、強姦され、X2も内線電話を用いて呼び出されて、業務時間中に支店長室において身体に触るなどをはじめとする猥褻な行為をされたことから、(1)Y2に対しては不法行為責任(民法七〇九条)に基づく損害賠償、(2)Y1に対しては債務不履行責任(民法四一五条)又は使用者責任(民法七一五条)に基づく損害賠償を請求したケースで、(1)については、Y2には不法行為に基づく損害賠償責任があるとして請求が認容され、(2)については、Y2の日本における代表者としての地位に照らせば、従業員であるX1及びX2に対する行為はY1銀行の業務の執行行為と密接な関連があるとして民法七一五条に基づく使用者責任を認め、請求が一部認容された事例。
参照法条 民法709条
民法715条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / セクシャル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント
裁判年月日 1999年10月27日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (ワ) 24351 
裁判結果 一部認容、一部棄却(確定)
出典 時報1706号146頁/タイムズ1032号172頁
審級関係
評釈論文 山之内紀行・平成12年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊1065〕370頁2001年9月
判決理由 〔労基法の基本原則-均等待遇-セクシャル・ハラスメント〕
 被告Y2は、前記(第四、一、1)認定のとおり、原告X1に対してその意思に反してわいせつな行為をした上、暴行をもって原告X1を姦淫したものであるから、民法七〇九条に基づき、右行為によって原告X1に生じた損害を賠償する責任がある。
 また、被告Y2は、前記(第四、二、1)認定のとおり、原告X2に対して、わいせつな行為をしたものであるから、民法七〇九条に基づき、右行為によって原告X2に生じた損害を賠償する責任がある。〔中略〕
〔労基法の基本原則-均等待遇-セクシャル・ハラスメント〕
 原告X1に対する強姦行為等自体は勤務時間外に被告Y2の自宅において行われたものであるが、前記(第一、一、1、(二))争いのない事実等及び前記(第四、一、1)認定のとおり、被告Y2は、被告銀行の日本における代表者であり、従業員である原告X1に対し、業務時間中に内線電話を用いて支店長室へ呼び出して日本語を教わりたいことを口実に自宅への来訪を要請したものであって、被告Y2の右地位に照らせば、従業員に日本語を教えるよう求める行為は被告銀行の事業の執行行為と密接な関連を有する行為と認められる。
 また、原告X2に対する強制わいせつ行為については、被告Y2が内線電話を用いて呼び出した上、勤務時間中に支店長室において強制わいせつ行為に及んでおり、被告銀行の業務の執行行為と密接な関連がある行為というべきである。〔中略〕
 したがって、被告Y2の使用者である被告銀行は、民法七一五条一項により、原告らに対して、原告らが被告Y2の行為によって受けた損害を賠償する義務がある。
七 被告Y2の責任と被告銀行の責任との関係
 被告Y2の民法七〇九条に基づく責任と被告銀行の民法七一五条に基づく責任との関係は、いわゆる不真正連帯と解するべきである(最高裁判所昭和四五年四月二一日判決・判例時報五九五号五四頁、最高裁判所昭和四六年九月三〇日判決・判例時報六四六号四七頁)。〔中略〕
〔労基法の基本原則-均等待遇-セクシャル・ハラスメント〕
 原告X1は、日本語を習得したいという被告Y2に日本語学習用のテキストを渡してあげようという善意をもって、被告Y2の要求に応じ、Aタワーズ四〇二号室に赴いたものである、被告Y2の原告X1に対する強姦行為等によって、右善意と自身の性的自由とを踏みにじられ、その当時、非常な恐怖に陥れられ、その翌日以降も再び被告Y2から内線電話で呼出しがかかるのではないかと恐怖のうちに過ごすことになり、多大なる精神的苦痛を受けたこと、右事実に加えて、前記(第四、三、1、2、4)認定の事実によって、精神的に非常に落ち込み、体調を崩してしまい、その点でも精神的苦痛を受けたことが認められる。
 右損害のうち、前記(第四、三、1、2、4)認定の事実に起因する損害は、被告Y2の原告X1に対する強姦行為等に関連して引き起こされたことは前説示(第四、三、7)のとおりであって、それらによって生じた精神的損害は、被告Y2の不法行為と相当因果関係のある損害というべきものである。
 原告X1が受けた右各精神的苦痛を慰藉するには、金三〇〇万円の慰藉料をもって賠償するのが相当である。〔中略〕
〔労基法の基本原則-均等待遇-セクシャル・ハラスメント〕
 原告X2は、被告Y2の原告X2に対する強制わいせつ行為によって、相当の精神的苦痛を受けたこと、右事実に加えて、前記(第四、三、1、5)認定の事実によって、精神的苦痛を受けたことが認められる。
 右損害のうち、前記(第四、三、1、5)認定の事実に起因する損害は、被告Y2の原告X2に対する強制わいせつ行為に関連して引き起こされたことは前説示(第四、三、7)のとおりであって、それらによって生じた精神的損害は、被告Y2の不法行為と相当因果関係のある損害というべきものである。
 原告乙山が受けた右各精神的苦痛を慰藉するには、金七〇万円の慰藉料をもって賠償するのが相当である。