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ID番号 07454
事件名 懲戒処分無効確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 首都高速道路公団職員事件
争点
事案概要  首都道路公団Yに勤務する労働者Xが、Yが事業者となって実施することになっていた道路建設工事について、用地確保、維持管理費等の観点から批判を加え、他のルートに変更すべきである旨の意見を新聞紙上に投書したことから、この投書によりYの名誉を著しく毀損し職場秩序を乱したことを理由に、停職三か月の懲戒処分を受け、更に停職期間中の給与は支給しないとの規定等を根拠として特別手当が支給されなかったことから、主位的に右処分が違法であるとして、予備的に特別手当を全額支給しなかったことを違法としてそれぞれ損害賠償を請求したケースの控訴審で、一審と同様に、本件懲戒停職処分の事由はその中心となる事由を含め、実質的にほぼ全部が認められるとし、右処分は有効であるとして、Xの控訴が棄却されたが、一審で棄却された予備的請求部分については、停職による不就労日数のみを考慮して年末特別手当相当額の損害賠償請求が認容された事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
労働基準法89条2号
労働基準法11条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 会社中傷・名誉毀損
賃金(民事) / 賞与・ボーナス・一時金 / 賞与請求権
裁判年月日 1999年10月28日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ネ) 2537 
裁判結果 一部変更(上告)
出典 時報1721号155頁
審級関係 一審/06947/東京地/平 9. 5.22/平成1年(ワ)3761号
評釈論文 山川隆一・平成12年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊1065〕387~388頁2001年9月
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-会社中傷・名誉毀損〕
 被控訴人が本件懲戒停職処分の事由とした控訴人の直接の行為のうち、〔1〕 本件投書の中で、川崎縦貫道(一期)につき、管理費及び代替地について、著しく事実に反することを述べたものと認められることは、4、5のとおりであり、〔2〕 本件投書の中で、川崎縦貫線(一期)の路線の選定が、公団として最適の決定であることを知悉しながら、同路線選定に批判を加えたことは認められることは、6のとおりであり、右行為による結果及び就業規則適用上の評価も、〔3〕 右行為により、地元関係者に相当の混乱を、建設省、神奈川県、川崎市等の関係各方面に混乱を生ぜしめ、もって、公団業務の遂行が支障を来したほか、公団の職場秩序は著しく乱されたとの限度で認められることは、7のとおりである。
 しかし、被控訴人が本件懲戒停職処分の事由とした控訴人の直接の行為のうち、〔4〕本件投書が掲載された際に控訴人の氏名に「道路公団勤務」との肩書が付されていたことは認められるが、それが就業規則四条四号に該当するとはいえないことは8のとおりである。
 そうすると、被控訴人が本件懲戒停職処分の事由とした控訴人の直接の行為のうち、右〔1〕〔2〕の事実が認められ、その評価〔3〕も就業規則で定められた禁止事項該当性も前記の限度で認められ、懲戒処分理由書には、控訴人の行為が該当する条項として被控訴人の就業規則四条四号のみが挙げられ、控訴人の直接の行為を摘示する部分にも、右行為による結果及び就業規則適用上の評価を記載した部分にも、具体的事実は明示されていなかった〔4〕の本件投書が掲載された際に控訴人の氏名に「道路公団勤務」との肩書が付されていたことのみが就業規則四条四号に該当するとはいえないのであるから、本件懲戒停職処分の事由はその中心となる事由を含め、実質的にはほぼ全部が認められたものということができる。
 (二) 本件懲戒停職処分が社会的に相当な行為に対するものであるので本件懲戒停職処分が許されないか否か、本件懲戒停職処分が裁量権の範囲を逸脱しているか否か、本件懲戒停職処分手続の手続に瑕疵があるか否かについての判断は、原判決五三頁六行目から六三頁六行目までのとおりであるから、これを引用する。
〔賃金-賞与・ボーナス・一時金-賞与請求権〕
 就業規則四〇条に懲戒処分の種類の一つとして停職が定められたのは、企業内の制裁として停職期間中出勤を停止し、その期間中の給与の請求権を失わせる経済的不利益を与えることを、少なくとも本質の一部とするものと解されるが、被控訴人の主張する解釈によれば、同じ給与を受けている者が同じ期間の懲戒停職処分を受けた場合でも、停職期間中に特別手当の支給基準日が含まれる場合と含まれない場合とでその受ける不利益に大きな差が生ずることになるが、このことは制裁のあり方として極めて不合理である。
 以上のような諸事情を考慮すると、文言の意味が一義的に明確でない就業規則四〇条の「その期間中の給与は支給しない。」との規定は、被控訴人主張のように、その期間(停職期間)中においてはいかなる給与債権も発生しないと解するのではなく、その期間(停職期間)に対応する給与、即ち、停職により就労しなかった期間に対応する給与は支給しないとの趣旨と解釈するのが相当である。そして、具体的な特別手当についての停職期間に対応する支給しない分を控除した支給額の算定は、被控訴人で実際に行われている他の方法を認定するに足りる証拠がない以上、直前の支給基準日後、当該支給基準日までの期間に含まれる停職により就労しなかった日数を、その期間の欠勤日数に加算して得た欠勤日数により定まる支給率で計算して求めるのが、被控訴人の特別手当額の算定の実情に合致する。〔中略〕
〔賃金-賞与・ボーナス・一時金-賞与請求権〕
 被控訴人が、控訴人に対し、昭和六三年の年末特別手当を全額支給しなかったことに法的根拠は認められず、被控訴人は、自らの就業規則及び給与規程の解釈を誤った過失により控訴人に財産的損害を与えたものというべきである。