全 情 報

ID番号 07464
事件名 従業員地位確認等請求事件
いわゆる事件名 ケイエスプラント事件
争点
事案概要  生コンクリート製造販売会社Yで生コン運搬する女性大型ミキサー運転手Xが、Yは経営状態が厳しいことを理由に、(1)解雇予告手当及び退職金一割増(Xは退職金規程の支給要件を充足していなかったが支給されるものとされた)の支払及び(2)社会保険の一か月延長を解雇条件として、欠勤、遅刻及び早退の頻度、勤務状況並びに経験年数、健康状態等を基準として選別されたXを含む四名に対し解雇予告をしたところ、その後Yとの話合いのなかで、X以外の対象者三名は前記解雇条件に加えて二か月分の給料の支給を条件に解雇を受け入れたものの、Xは復職を希望し、Yと決裂したことから、本件解雇は解雇権の濫用により無効である等として、従業員としての地位確認及び賃金支払を請求したケースで、整理解雇の回避措置が取られておらず、人員整理の必要性及びXの人選方法自体にも疑義を差し挟まざるを得ないことを総合考慮すれば、本件懲戒解雇は解雇権の濫用で無効であるとして、請求が認容された事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 1999年11月19日
裁判所名 鹿児島地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 726 
裁判結果 認容(控訴)
出典 労働判例777号47頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 整理解雇は、労働者に帰責事由がないにもかかわらず、その生活・経済基盤を一方的に奪うものであるから、右経営者の判断にも一定の制約があって然るべきであり、被告会社の就業規則においても一八条一〇号「事業の縮小、変更、廃止に伴う業務上の都合による場合」、第一一号「その他前各号に準ずるやむを得ない理由がある場合」と自ら一定の制約を定めているところである。そして、右各号の「業務上の都合」、「やむを得ない理由」に該当し、整理解雇が有効とされるためには、(一)人員削減の必要性があるか、(二)整理解雇対象者の選定基準及び基準の適用に客観的合理性があるか、(三)整理解雇を回避するための努力が尽くされているかなどの諸事情の存否を総合検討し、かつ、企業の規模、人員削減の必要性の程度、労働者の職種等の事情を勘案して判断するのが相当というべきである。
〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
 前記認定のとおり、被告会社は、第三期以降、四億五〇〇〇万円以上の売上げを堅持しており、売上損益自体は黒字が続いており、それにもかかわらず、当期損失を計上し続けたのは、販売費及び一般管理費の削減努力の不足にも原因があったのではないかとの点が指摘でき、被告会社が本件整理解雇に至る前に行うべき経営努力を怠ったのではないかと考えられるところである。そして、被告会社は、鹿児島県内でも有数の企業グループの一社であるところ、親会社等に過度にその存立を依存すべきでないことはいうまでもないが、その設立の経緯やグループ内における被告会社の位置付けからして、被告会社が、平成一〇年二月当時、経営的に高度の危機下にあり、人員整理をしなければ倒産必須の状況であったとまで認めることはできない。
 (二) 被告会社が本件解雇に至るまでにとった経営合理化策は、前記一2(二)で認定したとおり、〔1〕平成八年五月に鹿児島生コン協同組合鹿児島支部へ加入したこと、〔2〕新工場建設に伴う在庫管理等の強化による経費削減、〔3〕平成九年七月頃の営業手当廃止の提案などにとどまっており、被告会社は、平成八年頃までは、原告を新規雇い入れるなど赤字状態を脱却するための積極的姿勢をとっておらず、平成九年以降、いわゆる金融機関の貸渋りによって資金繰りが困難となり(もっとも、被告会社は、第五期以降、銀行借入金を逐次減らしてきている。)、急拠即効的な対応をしたという面があり、他にとり得る経費削減策を十分検討・実行することなく、本件解雇が実行された面があるといわざるを得ない。
〔解雇-整理解雇-整理解雇基準〕
 (一) 整理解雇者の人選については、当該企業の個別・具体的事情ないし状況に応じて異なるものであり、第一次的には企業側が自己の判断と責任に応じて諸般の事情を考慮して決するものというべきであり、右人選の基準が、不合理かつ恣意に基づくものであると判断されるような場合には解雇権の濫用として無効とされるが、そうでない限り、右合理性の判断においては企業側の裁量を尊重するのが相当というべきである。
 (1) そこで、検討するに、被告会社は、解雇対象者の選定基準は、欠勤、遅刻及び早退の頻度、勤務状況並びに経験年数、健康状態等を基準とし、前記一3(二)のとおり、原告の出退勤状況及び健康面の不安等に照らし、原告を解雇対象者に選定したことが認められるところ、右選定基準そのものを不合理かつ恣意的であるということはできない。
 しかしながら、被告会社が原告を解雇対象者として選定した理由を具体的にみるに、以下のような疑問点が挙げられる。
 まず、欠勤については、(証拠略)によれば、二五回と全従業員の中で最も多いとされるが、これは、有給休暇と振替休日の合計数と考えられるところ、前者については労働者に認められた権利であり、これを労働者に不利に斟酌することは適当ではないし、また、後者についても、休日の土曜日に出勤し、平日に休暇を取るというのであるから、仕事量の過少はあるにせよ、振替休日の数の多さ自体を不利に斟酌することには疑問を呈さざるを得ない。次に、股関節痛及び血尿による健康状態の不安も、原告の主張するとおり、女性生コン運転手の一種の職業病的な側面があることは否定できず、解雇の理由についてこれを正面から考慮することにも躊躇せざるを得ない面がある。
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 解雇回避措置は、労働契約上の信義則から要請されるものであるが(最判昭和五八年一〇月二七日労判四二七・六三)、その程度は、ありとあらゆる解雇回避措置をとるべきことが義務づけられるというものではなく、その当時の会社の置かれた状況下において信義則上相当の経営上の努力をすれば足りるものというべきである。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 本件解雇当時の被告会社の置かれた状況下において、被告会社の措置が信義則上相当であったか否かについて検討するに、前記認定のとおり、生コン運転手については、A及びBが解雇に応じ、Cも自主退職していることから、更に原告に対する人員整理の必要性が緊急かつ高度であったとまでは認め難いこと、また、被告会社のとった経営合理化策は必ずしも十分なものであったとはいえず、販売費及び一般管理費の削減など他にとるべき手段も残されていたこと、さらに、被告会社で人員整理の方針が立てられたのは平成九年一一月頃であるが、本件解雇はその約四か月後という短期間のうちになされており、その間に退職勧奨、希望退職の募集など明確な解雇回避措置が講ぜられたことは一切なく、また、賃金カット、時間短縮等の方法による人件費削減については、被告会社は、輸送部門の従業員に関する限り、従来から相当の人件費削減措置をとってきていたが、右従業員らも被告会社の窮状を察し、できる限り、これに協力する姿勢で応じてきたと認められること、そして、解雇に至る右経過をみる限り、本件解雇は労働者側からみて唐突で予期しないものであったことは否めず、本件解雇が労使間の信義に則ってなされたとはいい難いことなどからすれば、本件解雇は、信義則上相当の解雇回避努力を尽くしたとは認められないといわざるを得ない。
〔解雇-解雇権の濫用〕
 本件事実関係の下においては、解雇回避措置がとられておらず、また、人員整理の必要性及び原告の人選方法自体にも疑義を差し挟まざるを得ないこと等を総合考慮すれば、就業規則一八条一〇号「事業の縮小、変更、廃止に伴う業務上の都合がある場合」、第一一号「その他前各号に準ずるやむを得ない理由がある場合」に該当するとしてなされた本件解雇は解雇権の濫用であって無効というべきである。