全 情 報

ID番号 07465
事件名 地位保全等仮処分申立事件
いわゆる事件名 日本ヒルトン事件
争点
事案概要  ホテルYが紹介手数料を支払うことで配膳会が日々配膳人の紹介をするという合意の下で、ホテルの食器洗浄及び管理業務、ステージの設営等の業務に従事していた配膳人Xら(いずれも配膳会に登録)が、自らの希望を前提として就労予定表が作成され勤務日が個別に決定され、それに従って勤務していたが、Yは多額の累積損失を抱え、危機的な状況にあったため、正社員の賞与を引き下げるなどの措置を行うとともに、Xらに対しても労働条件の変更(食事・休憩時間の賃金支給対象からの除外、交通費の実費支給等)を拒否すれば契約を更新しない旨を伝えたが、その後、Xらと会社の間で労働条件の変更について合意が成立しないまま雇用契約が終了したことから、Xらが雇用契約上の地位の確認及び賃金支払を請求したケースで、日々の雇用契約についてなされた本件雇止めは社会通念上合理的な理由があるとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法14条
労働基準法21条
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め)
解雇(民事) / 変更解約告知・労働条件の変更
裁判年月日 1999年11月24日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 平成11年 (ヨ) 21104 
裁判結果 却下
出典 労経速報1748号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 前記のとおり債務者は、配ぜん人との雇用契約が日雇いの関係であるとしながらも、常用者である配ぜん人の存在を認め、勤続年数に応じて本件資格制度を設けるなどしているが、そもそも日雇い労働者について勤続期間を概念することが論理的に矛盾するとはいえず(労働基準法二一条本文ただし書参照)、日々雇い入れられるものについても、同一人が引き続き同一事業場で使用されている場合は、間断なく日々の雇用契約が継続しているまでの状態ではなく、途中に就業しない日が多少あるとしても、社会通念上継続した労働関係が成立していると認め、いわば常用的日雇い労働者と認めることができるというべきである。そして、債務者とこのような日雇い関係にある配ぜん人の時給についてのべースアップ交渉が一年単位で行われているからといって雇用期間の定めがないということにはならず、有給休暇の付与並びに健康保険及び厚生年金保険への加入はいずれも債務者が法の規定に従った取扱いをしたのみであり、むしろ日雇い労働者であると認められていたから日雇い特例被保険者となっていたものといえ、法定の要件に達したことにより社会保険及び厚生年金保険に加入したとしても、雇用契約上の期間の定めそのものが変更を受けるものとは認められないというべきである。〔中略〕
〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 前記認定のとおり、債権者らは、遅くとも平成七年から債務者における勤務を開始し、債務者からの賃金収入により生計を立てており、債務者との日雇いの関係が長期間にわたって反復更新され(なお、前記のとおり日雇い契約が間断なく継続しているまでの状態ではなく、途中に就業しない日が含まれている)、債務者も債権者ら配ぜん人のうちでも常用者である者を認め、時給のべースアップ交渉を定期的に行い、本件資格規定を創設している等の事情を総合すれば、債権者らは、いわば常用的日雇い労働者に当たると認められ、債務者は、合理的な理由がない限り、債権者らとの間で従前どおりの内容の日々の雇用契約の更新を拒絶することは許されないというべきである。
 (三) そこで、本件において債務者が債権者らとの従来の労働条件による日々の雇用契約の更新を拒絶した本件雇止めがやむを得ないと認められる合理的な理由が存在するか否かについて見るに、前記認定事実又は前提事実のとおり、債務者は、〔1〕平成一〇年度で三七億円を超える多額の累積損失を抱え、賃貸人会社からホテル建物の明渡し請求を受ける危機的な経営状況にあること、〔2〕正社員の組合との間でも人件費削減のため賞与の引下げ等の合意を行っていること、〔3〕本件通知書による労働条件変更により年間合計約四〇〇〇万円の経費節減ができると試算され、債務者の経営改善に大きな効果が期待できるとされていること、〔4〕本件通知書による新たな労働条件の内容も、食事・休憩時間の賃金支給対象からの除外、交通費の実費支給及び深夜・早朝の割増賃金を法定の時間帯とすること等にとどまること並びに〔5〕本件通知書の内容については組合に対し約半年前から交渉を開始し、配ぜん人の九五パーセントに当たる一七〇名の者との間で変更に同意を得ていること等の事情を総合すれば、債務者が従来の労働条件による債権者らとの日々の雇用契約の更新を拒絶した本件雇止めについては、社会通念上合理的な理由があると認めるのが相当といえる。
〔解雇-変更解約告知・労働条件の変更〕
 債権者らは、争う権利を留保しつつ、本件通知書の内容による労働条件変更に同意したにもかかわらず、債務者は、本件雇止めをしたのであり、右雇止めは裁判を受ける権利を否定するもので合理性を欠き無効であると主張する。しかし、債権者らのいう、争う権利を留保するとは、本件通知書の内容である新たな労働条件に合意して雇用契約を締結するが、今後も雇用条件の改善を求めて争うという趣旨ではなく、新たな労働条件による雇用契約の成立自体につき、合意は成立していないとして後日争う趣旨であるというものである(審尋の全趣旨)。したがって、本件債権者らのいう「留保つきの合意」とは、本件通知書の内容の新たな労働条件による雇用契約には合意しないというものであり、新たな労働条件による雇用契約については法律上意思の合致がなく、債権者らと債務者間の日々の雇用契約は成立しないものといわざるを得ない。