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ID番号 07466
事件名 勤務義務不存在等確認請求事件
いわゆる事件名 日本航空(操縦士)事件
争点
事案概要  航空会社Yの副操縦士又は航空機関士として勤務し、労働組合の組合員であるXら五二名が、Yでは経営不振等に伴う国際コスト競争力の強化等を目的として、合理化・構造改革がすすめられていたところ、その一環として従前に労働組合と協定を締結して定められた運航乗務員の勤務基準を改定すべく、約九か月間でYと労働組合との間で一九回の事務均衡と二六回の団体交渉がなされたが、合意に至らず、Yが協定(労働協約)を破棄する旨の通知をし、協定と同一内容の就業規則を改定して、交替要員なしの「シングル編成」で着陸回数一回の飛行の場合における勤務基準を延長変更した(乗務時間九時間から一一時間、勤務時間一三時間から一五時間)ことから、右改定を無効として、新基準に尽くす義務のないことの確認を請求したケースで、会社の経営状況が厳しいこと、組合の理解を得ようと努力したことを認めつつ、乗務員の多くが、疲労度及び運行の安全性から新基準による勤務に反対しているうえ、「運航の安全性の担保がない」と認めざるを得ないとし、乗務割が乗務員に過度の疲労が蓄積しないための考慮事項等を規定した航空法及び同施行規則の基準に従っている限り安全運航に支障がないと考えるべきではなく、本件新基準は科学的、専門技術的な見地や外国を含む他の航空会社との比較、過去の運行実績などの観点から、重大な過誤に結びつく危険性があるとして、Yの合理性に関する検証は不十分と判断し、新基準のうち「シングル」編成による予定着陸回数が一回の場合の運航についての乗務時間制限に関する規定は、内容自体の合理性を欠くから就業規則としての効力がないと判断し、その他の請求についても詳細な検討を加えた結果、結論として確認利益の認められる適法な訴えについて、シングル編成による予定着陸回数が一回及び二回の場合、勤務完遂の原則、国内線の乗務の連続日数及び待機に関し、勤務義務のないことを確認し、請求が一部却下、一部認容された事例。
参照法条 労働基準法93条
労働基準法89条1項1号
体系項目 就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 労働時間・休日
裁判年月日 1999年11月25日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (ワ) 7883 
平成6年 (ワ) 12759 
平成7年 (ワ) 14977 
平成8年 (ワ) 14480 
平成10年 (ワ) 23031 
裁判結果 一部認容、一部却下、一部棄却(控訴)
出典 時報1725号3頁/タイムズ1051号123頁/労働判例778号49頁
審級関係
評釈論文 古川陽二・労働法律旬報1477号31~37頁2000年4月10日/深谷信夫・法律時報73巻8号110~113頁2001年7月/深谷信夫・労働法律旬報1477号6~8頁2000年4月10日/中嶋士元也・ジュリスト1225号103~107頁2002年6月15日/和田肇・判例評論508〔判例時報1743〕212~216頁2001年6月1日
判決理由 〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-労働時間〕
 通常の予定乗務時間としてはセーフティ・マージン(安全の余裕度)を見込む必要がある。これを見込まなければ、特段フライトイレギュラーが発生せず、平穏に運航できた場合は別として、運航乗務員が疲労のため既に余裕のない状態でフライトイレギュラーに対処しなければならないことになる危険がある。科学的、専門技術的検討の結果に基づいて考えれば、前記のとおり、通常の予定乗務時間としては、セーフティ・マージン(安全の余裕度)を確実に見込むならば九時間、控え目に絞り込むとしても一〇時間を超えて予定しないことが相当であるが、被告は本件就業規程改定により、これを出頭時間帯に応じて九時間、一〇時間三〇分及び一一時間とした。運航の安全性との関係で事の本質を端的に述べれば、被告は経営上の必要性を理由にセーフティ・マージンを削減した。したがって、被告が右のとおり定めた乗務時間制限が運航の安全性を損なわない程度のものである(必要最小限度以上のセーフティ・マージンが見込まれている。)というだけの合理的根拠があることが必要であるが、この合理的根拠は見出し難い。〔中略〕
〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-労働時間〕
 前記のとおり本件就業規程改定後六年間にわたって成田・サンフランシスコ線等が運航されているのに、特段の事故が発生していないという運航実績だけでは安全性の根拠として十分であるとはいえず、シングル編成による二名編成機については、本件就業規程中のシングル編成による予定着陸回数が一回の場合の運航についての乗務時間制限に関する規定は、内容自体の合理性を欠くから、就業規則としての効力がない。
 本件就業規程中のシングル編成による予定着陸回数が一回の場合の運航についての勤務時間制限に関する規定は、この場合の運航についての乗務時間制限に関する規定とその目的、内容及び運航業務に及ぼす影響において不可分一体であり、乗務時間制限に関する規定の合理性と同様に考えられるべきであるから、シングル編成による二名編成機について右のとおり本件就業規程中のシングル編成による予定着陸回数が一回の場合の運航についての乗務時間制限に関する規定の内容自体の合理性を肯定することができない以上、シングル編成による二名編成機については、本件就業規程中のシングル編成による予定着陸回数が一回の場合の運航についての勤務時間制限に関する規定についても、その内容自体の合理性を肯定することができず、就業規則としての効力がない。