全 情 報

ID番号 07468
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 東京アメリカンクラブ事件
争点
事案概要  日米間の親善等を増進すること等を目的とする社団法人Yに雇用されて、ウェイトレスとして勤務後、電話交換手として勤務していたが、右業務の廃止の決定により洗い場で勤務することとなったXが、右職務変更に伴い、賃金減額措置がとられることが通知されたが、これを拒否し、従業員会がYにその撤回を申し入れたにもかかわらず、職種変更月には基本給が減額(約三三万円から約二七万八千円)され、その分新たに特別手当が約五万円支払われたため賃金月額自体はほとんど変わらなかったが、その後、特別手当が毎月二〇八五円ずつ減額され、二年一か月後には特別手当がなくなり、月額賃金が全体で約五万円減額になり、また基本給の減額に伴いそれに基づく賞与も減額されたことから、本件減額措置はXの同意に基づかない違法、無効なものであるとして、(1)雇用契約に基づき減額措置以前と以後の差額賃金(賞与分も含む)の支払及び(2)本件減額措置以前の賃金支払請求権を有する労働契約上の地位確認を請求したケースで、減額措置の同意の有無に関しては、Xが本件減額措置に承認する意思はなかったことが明らかであり、単に明確に拒否しなかったことをもって、黙示の承認があったものとみなすことはできないとし、Yでは原則として職種・職務と号俸を関連づけて基本給を決定しようとしてきたことが窺がえるものの、Yと各従業員との雇用契約は職種限定契約でないと判断することができ、厳密に等級号俸制が実施されているわけではないから、職務の変更に伴い当然に変更された等級号俸を適用しているということはできず、職種の変更と基本給の変更は個別に当該従業員との間で合意され、決定されるべきであり、本件減額措置は無効であるとして、(1)については請求が認容され、(2)については、確認の利益を欠くものであり、不適法であるとして請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法89条1項2号
労働基準法2章
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
裁判年月日 1999年11月26日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ワ) 4424 
裁判結果 一部認容、一部却下(控訴)
出典 労働判例778号40頁/労経速報1749号3頁
審級関係
評釈論文 水町勇一郎・ジュリスト1197号89~91頁2001年4月1日
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 本件雇用契約が職種限定契約であるかどうかについて、当事者間に争いがあるので、この点について判断する。
 被告においては、新卒者の定期採用は行っておらず、欠員の補充又は増員の必要が生じる都度、従業員の採用を行い、雇用契約書ともいえる「人事措置通知書」には、所属部課、職種などが明記されており、職種の変更が行われる場合には、それが臨時的なものである場合も含め、その都度「人事措置通知書」が作成され、従業員に対し交付している(前記一1、2(一)、(二)、なお、原告は、本人尋問において、「人事措置通知書」を受領したことがないと供述するが、〈証拠・人証略〉に照らし、採用できない。)。これらのことからすると、本件雇用契約が職種限定契約であるとみる余地もなくはない。しかし、一般に、専門技術的、あるいは、特殊な職種でない場合にまで、職種限定契約が締結されることは珍しい上、職種限定契約でなくとも、雇用契約書に当面の担当職務が記載されたり、人事異動に伴い職種や給与の等級号俸等の記載のある辞令交付が行われたりする例もしばしば見受けられることからすると、右事実をもって、職種限定契約の根拠とすることは困難である。また、被告の就業規則には、「配置転換」、「異動」に関する規定はない(前記一4(二))が、実際には、職務ないし職種の変更は行われており(前記一5)、就業規則の改訂案が異動についての規定を設けていること(前記一4(二))も、こうした職務ないし職種の変更が行われている実態を反映したものと推認することができる。さらに、原告は、被告に採用された後、異動の希望を出しており、(人証略)も、被告に採用された後、異動の希望を出したり、自分の希望と異なってはいたが、被告からの申出に応じて異動していること(〈証拠・人証略〉)からすると、被告の従業員は、被告に採用されて後、およそ職種の変更はない、あるいは、雇用契約が職種を限定したものとの認識は持っていなかったことが窺える。
 これらのことからすると、本件雇用契約は職種限定契約であるということはできず、むしろ、異動ないし配置転換も予定された雇用契約であるというほかなく、原告の電話交換手から洗い場への職種変更も本件雇用契約の範囲内の配置転換ないし異動というべきである。
〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・賃金の減額〕
 前記一3(一)によれば、原告は、本件減額措置に同意していないというほかなく、同意したとする被告の主張を認めることはできない。〔中略〕
〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・賃金の減額〕
 本件減額措置の実施後、原告が被告に対し、本件減額措置に異議を止めた形跡はなく、被告は右をもって、原告の承諾があったと主張する。
 しかし、当時原告としては、交渉はECに委ねたとの認識を持っており、平成八年九月ないし一〇月ころには、本件原告訴訟代理人に相談もしていたこと(原告本人)からすると、本件減額措置に承認する意思はなかったことが明らかであるし、そもそも、基本給の減額のように労働条件の極めて重要な部分については、単に当該労働者が明確に拒否しなかったからといって、それをもって黙示の承諾があったものとみなすことはできない。
 したがって、原告の同意があったことを理由として本件減額措置が有効であるとする被告の主張は理由がない。