全 情 報

ID番号 07471
事件名 給料等請求事件
いわゆる事件名 バベル事件
争点
事案概要  語学、翻訳教育、翻訳などを目的とする会社Yに吸収合併される前のY関連会社Aの代表者(Y代表者と同一)との間で、米国現地法人で働くという合意が成立していたX(当時別の会社の現地法人の社長を経験後、日本で部長をしていた)が、翻訳会社で勤務した経験がないことを理由にすぐにはアメリカに赴任せず、まず、当時翻訳の請負受注を主な業務としていたY関連会社Bの取締役に就任して翻訳受注業務の責任者として運営や顧客開発を担当し、翻訳会社の事業について実務経験をしたうえで、米国現地法人で働くことになったが、Bに出社し始めた頃に(この当時A及びBの商業登記簿にはXがそれぞれの取締役に就任したことが記載)Yの関連会社間で業務分担に変更が生じ、翻訳請負受注はAに移管し、AがYに吸収合併された後はYが右業務を担当していたところ(吸収合併当時はYの商業登記簿にXの取締役就任の記載があったが、約一年後には取締役として再任されていなかったことが窺がえる)、その約一年後、YからYの取締役を辞任して現地法人で勤務する旨が通知されたが、これを拒否し、更に現地法人で勤務する場合の待遇面の条件が明らかにされた後も、給与体系の変更に納得できないこと等を理由に、これを拒否したため、解雇、解任する趣旨で出社不要と申し渡され、それ以降は出社しなかったことから、Yから解雇されたとしてYに対し、未払賃金の支払を請求したケース(なお、Aと同様にYにより健康保険、厚生年金保険、雇用保険の加入手続が執られていた)で、XはAにおいて使用人兼務取締役に就任し、また右会社のYへの吸収合併に当たってYにおける使用人兼務取締役としての待遇に特段の変更が加えられたことが認められないとしたうえで、(1)使用人としての地位については、Xは米国現地法人で勤務する目的でAにおける使用人兼務取締役として就任したにもかかわらず、現地法人での勤務を拒否し、更に勤務条件について譲歩を重ねる余地がなかったことから、YとしてはXをYの使用人として雇用しつづける必要はないというべきで、解雇の意思表示は正当であり、解雇の意思表示から一か月経過後まで給料が支払われていることから同日に効力が発生したものというべきであり、(2)取締役の地位については、解任する趣旨での出社不要の申し渡しから解任されたということはできないが、Xは取締役として再任されなかったことから、Yにおける使用人兼務取締役としての給与及び報酬、任期は吸収合併前のそれと同一であり、それによればYの取締役としての任期が解雇の意思表示から一か月経過後に任期満了により終了したものとみるべきであるから、それをもとに計算した未払給与請求が一部認容された事例。
参照法条 労働基準法9条
労働基準法89条1項3号
民法1条3項
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 取締役・監査役
解雇(民事) / 解雇事由 / 業務命令違反
裁判年月日 1999年11月30日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 17761 
裁判結果 一部認容,一部棄却(控訴)
出典 労働判例789号54頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-労働者-取締役・監査役〕
 原告とA会社代表者(被告代表者)は原告が採用通知書(〈証拠略〉)に記載された条件でA会社の従業員及びB会社の取締役(ただし、これが業務担当取締役(代表取締役以外の取締役で対内的業務執行権を有する取締役)を意味するものか、それとも使用人兼務取締役を意味するものかについてはこの(六)の(2)を参照されたい。)として日本で働くものとして本件合意をした(前記第二の二2)が、その後被告の関連会社間で業務分担に変更が生じて原告がB会社において担当する予定であった翻訳受注業務がA会社に移管されることになったことに伴い、平成九年一月一三日から出社していた(前記第二の二3)原告は同年三月二五日にはA会社において翻訳受注業務を担当する取締役に就任した(前記第三の一2(三))というのであり、以上の経過によれば、原告は少なくとも平成九年三月二五日以降はA会社において使用人兼務取締役ではなく、翻訳受注業務を担当するいわゆる業務担当取締役に就任したものと考えられないでもない。
 しかし、(1) 取締役が対内的業務執行権を有するかどうかは、定款、取締役会、取締役に関する内規などがそれぞれの取締役にどのような権限を付与したかによって決まるところ、本件全証拠に照らしても、定款、取締役会、取締役に関する内規などによって原告が取締役としてA会社の業務遂行の一部である翻訳受注業務を担当するものとされていることを認めるに足りる証拠はないのであって、そのことからすると、原告がA会社において翻訳受注業務を担当することになったのはA会社代表者(被告代表者)の代表者としての指示によるものと考えられること、(2) 法人税基本通達九―二―二は、業務担当取締役と使用人兼務取締役とを区別し、使用人たる職制上の地位を兼ねるのが使用人兼務取締役であり、取締役として法人の特定の部門の職務を統括する場合は職制上の地位を兼ねるのではないので、使用人兼務取締役には当たらないとしているが、採用通知書(〈証拠略〉)によれば、原告はB会社において事業開発部長の地位を兼ねるものとされており(前記第三の一1(一))、事業開発部長は使用人としての職制上の地位を意味するものと考えられ、そうすると、原告はB会社においては使用人兼務取締役に就任することが予定されていたものと考えられること、(3) 被告の関連会社間の業務分担の変更によって翻訳受注業務がB会社からA会社に移管されるのに伴い、原告はB会社において取締役の外に兼ねるものとされていた事業開発部長の地位をA会社においても兼ねることになるものと考えられ、採用通知書(〈証拠略〉)によれば、その外に原告はA会社において海外事業開発室室長の地位に就くものとされていたのであり(前記第三の一1(一))、海外事業開発室室長は使用人としての職制上の地位を意味するものと考えられるが、そうであるとすると、原告がA会社及びこれを吸収合併した被告において現に従事していた翻訳の請負受注の業務など(前記第二の二3)は右の職制上の地位に基づいて従事していたものと考えられること、(4) 少なくとも原告が出社した平成九年一月一三日から原告がA会社の取締役に就任した日の前日である同年三月二四日までの間は原告はA会社の従業員として翻訳の請負受注の業務などに従事していたというほかないこと、(5) A会社及びこれを吸収合併した被告は原告のために健康保険、厚生年金保険及び雇用保険の加入手続を執っていたこと(前記第二の二7)、以上、(1)ないし(5)を総合すれば、原告はA会社において使用人兼務取締役に就任したものと認められる。〔中略〕
〔労基法の基本原則-労働者-取締役・監査役〕
 以上によれば、原告は平成九年一月一三日から同年三月二四日まではA会社の従業員であり、同月二五日以降はA会社において翻訳受注業務を担当する使用人兼務取締役に就任したものというべきである。〔中略〕
〔労基法の基本原則-労働者-取締役・監査役〕
 原告はA会社の使用人兼務取締役に就任したものの、A会社から取締役としての報酬の支払はなく、A会社の従業員としての給与の支払しかなかったものと認められる。
 また、原告がA会社の使用人兼務取締役に就任した経緯に照らせば、原告のA会社の取締役としての任期は米国現地法人が立ち上げられ原告がアメリカで勤務するまでであると認められる。
 そして、本件全証拠に照らしても、A会社が被告に吸収合併されるに当たって原告の被告の使用人兼務取締役としての待遇に特段の変更が加えられたことが認められない本件では、原告の被告における使用人兼務取締役としての給与及び報酬、任期は原告のA会社における使用人兼務取締役としての給与及び報酬、任期と同一であると認められる。
〔解雇-解雇事由-業務命令違反〕
 被告代表者が平成一〇年三月の時点で原告にアメリカへの赴任を求めたことについて原告が給与体系が変更されたことに納得できないことを理由にこれを拒否したというのは、要するに、原告が被告代表者の提示に係る給与体系に納得できなかったというだけのことであり、原告がアメリカで勤務するについての待遇面での条件で原告と被告との間で折り合いがつかなかったということにすぎない。
 5 以上によれば、もともと原告は米国現地法人で勤務する目的でA会社における使用人兼務取締役に就任したのであるが、それにもかかわらず、原告は右4で認定、説示した理由で米国現地法人での勤務を拒否したというのであり、原告が米国現地法人で勤務する条件についてさらに譲歩を重ねる余地はなかった(前記第三の二3)というのであるから、被告としてはもはや原告を被告の使用人として雇用し続ける必要はないというべきであって、被告が平成一〇年三月二〇日に原告を解雇する旨の意思表示をしたことは正当ということができる。