全 情 報

ID番号 07488
事件名 懲戒処分無効確認等請求事件
いわゆる事件名 國士館事件
争点
事案概要  高校、大学、中学校等を設立する学校法人Yが設置する大学の体育学部教授会構成員であり、学部入学選抜に深くかかわっていた体育学部教授X(ラグビー部の部長兼監督、スケート部監督等の地位にあった)が、入学試験において受験生Iのスポーツ推薦書の関係書類であり出身校長作成の「推薦書」「スポーツ競技歴調書」に助手がIについてスポーツ推薦の資格を有するように加筆したことを認識しながら、それを是正させるべき職務上の義務、Iの合格決定は虚偽の競技歴の記載によるものであることを認識しながら、Xが負う「運動技能優秀学生入学試験受験者名簿」の記載について正確、公正を期するべき職務上の義務を懈怠したこと、受験生S及びOについても「運動技能優秀学生入学試験受験者名簿」の記載について正確、公正を期するべき職務上の義務を懈怠したこと、右事実はいずれも新聞、テレビ等に大きく報道され、Yの入試の公正に疑惑がもたれ被告の名誉と信用を著しく傷つけたことを理由に、教員規則の懲戒規定に基づいて、一〇日間の出勤停止を内容とする懲戒処分がなされたため、懲戒事由とされる事実は存在しないか、相当性を欠いており、そもそも懲戒権を有していない理事会による処分は違法、無効であるとして、懲戒処分無効の確認及び慰謝料の支払を請求したケースで、私立学校法及びYの寄附行為に規定される「法人の業務は、理事会で決定する」を根拠に、理事会は懲戒権を有し、職務上の義務懈怠による義務違反を理由とする出勤停止処分に違法なく有効であるとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務懈怠・欠勤
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒手続
裁判年月日 1999年12月28日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (ワ) 15358 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1757号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由  原告は、「平成三年一月開催の全国高校総合体育大会、アイスホッケー、団体二位」というIの競技歴の記載が虚偽のものであることを認識していたのであるから、「平成六年度運動技能優秀学生後期入学試験受験者名簿」の「スケート」におけるIの競技歴欄の、アイスホッケーかスケートかの違いを除けばこれと同一の内容に帰着する「二年度全国高校総合体育大会準優勝」との記載もまた虚偽のものであることを認識していたものと認めることができる。そうすると、この点において、原告は、強化委員会委員長として負う「運動技能優秀学生入学試験受験者名簿」の記載について正確、公正を期するべき職務上の義務を懈怠したものということができる。
 そして、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、強化委員会作成の「運動技能優秀学生入学試験受験者名簿」は、一般入試の前記・後期試験のいかんを問わず、極めて重要な合否判定資料とされていること、Iが受験した平成六年度体育学部後期試験の合否判定のための教授会において「平成六年度運動技能優秀学生後期入学試験受験者名簿」中のIの競技歴について特に質疑応答といったこともなく終わったこと、しかし、Iは、受験者総数七五六名中七二四位というごく低い順位であったにもかかわらず、合格決定を受けたこと、以上の事実が認められる。原告本人中右認定に反する部分、(書証略)(平成六年四月一九日付け国士大室〇五三号調査委員会報告)中、「Iは準優勝チームのメンバーであるとの理由ではなく、これと同等の技能を有する者との理由で合格が決せられた」とする部分は、いずれも(証拠略)に照らして採用することができず、他に右認定を左右する証拠はない。
 そうすると、Iの合格決定は、強化委員会作成の「平成六年度運動技能優秀学生後期入学試験受験者名簿」中のIの虚偽の競技歴によってもたらされたものといわざるを得ないところ、右結果は、強化委員会委員長としての原告が負う「運動技能優秀学生入学試験受験者名簿」の記載について正確、公正を期するべき職務上の義務の懈怠が招来したものということができる。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務懈怠・欠勤〕
 前記争いのない事実によれば、ラグビー部関係の部費、合宿費、寮費、食費等としては相当多種類のものがあり、それが、いずれも「A大学ラグビー部(代表B)」又は「A大学ラグビー部後援会(代表B)」名義の預金口座に振り込まれているところ、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、平成六年春ころ、ラグビー部の部員やその関係者とおぼしき者らから、被告、文部大臣等に対し、ラグビー部関係の金銭収支の不明朗なこと等を内容とする苦情が寄せられ、文部省から、被告に対し、実情調査の指示が行われたこと、ところが、原告から、被告側に提出された資料はごく簡単なものにとどまり、金銭収支は整合しないままであったこと、そこで、被告側が、原告に対し、ラグビー部関係の金銭収支を明らかにする領収書、帳簿等の提出を要請したが、原告は、これら資料を自己の管理下に置きながら種々口実を構えてその提出を拒否したことが認められる。
 そうすると、原告は、A大学体育学部教授の地位にあり、ラグビー部の部長兼監督の地位にもあるのであるから、右認定の事情の下では、ラグビー部関係の金銭収支を明らかにする領収書、帳簿等の提出を求める被告の要請に協力すべき職務上の義務があったものというべきであって、これを拒否した原告の対応は、右職務上の義務を懈怠したものであることが明らかである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒手続〕
 被告が本件懲戒処分をする上で原告に対して弁明の機会を与えることが同処分の適否を左右する手続要件としての性格を持つものであるか否かは一考を要する事柄であるが、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、本件においては、同年九月二〇日原告に対して教員規則違反の事実を掲げた上、出頭の日時場所を示して弁明の機会を与える旨通知したことが認められるから、いずれにしても、この点で本件懲戒処分に手続的瑕疵が生ずることはないものというべきである。