全 情 報

ID番号 07494
事件名 未払賃金等請求事件
いわゆる事件名 峰運輸事件
争点
事案概要  運送会社Yで配送業務に従事するトラック運転手X1及びX2が、X1については、就労態度が悪いこと(配車指示を拒否、担当者に対する文句等)を理由に取引先会社から就労を拒否されたこと等から本社勤務への配転命令がなされ、その結果、配送業務に伴う手当がなくなり(後に解雇されるまで約九〇万円の減収)、更に右配転理由等に加えて、Yの業績悪化等を解雇理由として、就業規則の規定に基づき解雇され、またX2については、配送業務中に運転車両に損傷を生じさせたとして、X2の賃金から無事故手当及び賞与が減額された(二万円及び四万五〇〇円の減額)ことから、X1は、(1)本件配転命令は、労働協約規定の組合との事前協議を経ずになされ、また職種限定雇用であるX1の同意なく他の職種に配転できないとして、不法行為に基づき配転による賃金減額分と慰謝料の支払、(2)本件解雇は解雇権濫用で無効であるとして、雇用契約上の地位確認及び解雇以後の賃金の支払を請求し、X2は、(3)トラックの損傷はX2が生じさせたものでないとして、Yの債務不履行に基づく減額された手当及び賃金の支払を請求したケースで、(1)については、取引先からの就労拒否による配転は致し方のないものであり、また労働協約の規定における事前協議及び同意の対象に配転や解雇を含ませるかどうかは組合とYとで対立した玉虫色の解決を図ったものと認めるのが相当であり、事前協議を経ていない本件配転は無効になるものではないとしながら、X1の雇用契約は業務限定があることからすると、運転業務以外の配転が合理的として許されるのは、他の運転業務への配転先を検討し、次の異動が可能となるまでの期間(二週間)のみとして、その期間を超えた期間の配転による勤務は違法として、賃金減額分についての請求は一部認容されたが、慰謝料請求については請求が棄却され、(2)については、X1の行為は解雇事由に該当するほどのものではなく、合理性も認められないとして、地位確認及び賃金支払の請求(将来分については却下)が一部認容され、(3)については、損傷はX2が生じさせたといえない以上、賞与からの減額も根拠がないとして請求が認容された事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
民法1条3項
労働基準法11条
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界
賃金(民事) / 賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 2000年1月21日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 3418 
裁判結果 一部却下、一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例780号37頁
審級関係
評釈論文 渡邊絹子・ジュリスト1201号153~155頁2001年6月1日
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 (証拠・人証略)によれば、被告は、平成九年八月五日、A会社から、原告X1が、同社の南港センターにおいて、同社の配車担当者の配車指示を拒否し、かつ、他の担当者にも文句を言ったので、同社の配車担当者は他の運転手に配送を指示したとして、原告X1を南港センターにおける就労から外すように要請され、原告X1に謝罪させて、その後の南港センターへの就労について、同社の了解を得たが、その後、平成一〇年九月一日、同社から、原告X1が南港センターの同社の配車担当者に対するクレームが多いので、指導、教育を徹底するようにとの警告を受け、平成一一年一月六日には、平成一〇年一二月三〇日に、原告X1が、同社の配車担当者に対し直接クレームを付けたとして、原告X1の南港センターにおける業務を外すこと要求(ママ)され、被告は、そのため原告X1を従前のまま南港センターにおける配送に従事させることができず、原告X1に対して本社勤務を命じるに至ったことを認めることができる。
 原告X1は、配車拒否までしたことはないといい、A会社の配車担当者に配車について、要望したり、労働組合の委員長として公平な配車を求めただけであるというが、被告の得意先という他社との業務上の関係であるから、直接に苦情や要望を求めるのは相当でなく、それなりの手続を踏むべきであり、原告X1の所為に問題があったことは否めない。そして、被告としては、A会社から三回にも及ぶ申入れを受け、平成一一年一月六日には、原告X1の南港センターにおける就労を拒否されたのであるから、原告X1を南港センターで就労させることはできなくなったというべきであり、原告X1の配置転換は致し方のないことというべきである。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
 原告X1と被告の雇用契約は、原告X1の業務をトラック運転手として限定してされたものである。そこで、その配置転換先は、他の運転業務がまず検討されなければならない。ただ、本件配転命令が、A会社による平成一一年一月六日の原告X1の就労拒否を受けて、翌日されたことからすると、配転先検討のため、当面、運転業務以外の勤務を命じたとしても、そのこと自体はやむをえないものであり、これによって、運転業務に伴う手当の支給がされなくなったとしても、これを違法ということはできない。しかしながら、雇用契約に業務の限定があることからすると、右業務外への配転が合理的として許されるのは、配転先を検討し次の異動が可能となるまでの期間というべきである。〔中略〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
 原告X1本人尋問の結果によれば、原告X1に対する地上勤務は、本社勤務というものの、駐車場にある小屋にただ一人だけ配置されて、草取りや掃除以外に殆ど仕事もなく、その扱いには原告X1への嫌悪が見て取れるのであって、これらを併せ考慮すると、原告X1の配転先を真剣に検討したかどうかは疑問が残るところである。
 そうすると、原告X1の配転先を検討する期間としては、二週間もあれば充分というべきであり、被告は、遅くとも平成一一年二月には、原告X1を運転業務に復させるべきであり、原告X1の同月からの地上勤務は違法というべきである。
〔解雇-解雇権の濫用〕
 本件解雇は、〔1〕原告X1が、平成九年二月一日その配送業務についてA会社の配送担当者に直接コース表を請求したこと、〔2〕同年八月五日の同社の配車担当者の配車指示に対する拒否及び他の担当者に文句を言ったこと、〔3〕平成一〇年九月一日及び同年一二月三〇日申入れにかかる配車担当者に対し文句を言うなどの態度があり、A会社から南港センターでの業務差止めを求められたこと、〔4〕平成一一年一月六日にも原告X1の就業差止と代替運転手の派遣を求められたことを理由とする。確かに、〔1〕ないし〔3〕の原告X1の行為は、被告の得意先に対する行為であって、その配車に不満があったとしても、直接抗議することは穏当でなく、手続上問題があったといわなければならないが、解雇事由に該当するほどのことではない。平成一一年一月六日のA会社の申入れについても、配転をもって処理すべき事柄であって、そのことだけによって解雇を正当化するものではない。
〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・賃金の減額〕
 無事故手当の不支給については、本件損傷が原告X2の運転中に生じたことを前提にされたものであるが、前述のとおり、本件損傷が原告X2の運転中に生じたと認めるだけの証拠がないから、右不支給の根拠はないこととなる。そしてまた、右損傷を原告X2が生じさせたといえない以上、賞与からの減額も根拠がないといわなければならない。