全 情 報

ID番号 07500
事件名 会社年金請求事件
いわゆる事件名 朝日新聞社(会社年金)事件
争点
事案概要  新聞社Yを定年退職後、引き続き嘱託として勤務していたが、覚醒剤取締法違反で逮捕されたことを理由に懲戒解雇されたXが、懲戒解雇と同時に、新就業規則の定年後五年間年金を支給する旨の規定に基づいて支給されていた年金(月額六万円)の受給資格が取り消されたところ、改定前の制度においては「受給者に不都合な行為があった場合は、その支給を停止することがある」旨が規定されていたが、新規則には支給停止条項が規定が存在しなかったことから、受給資格の取消しに根拠はないとして、年金の支給を請求したケースで、右年金制度は、支給期間、支給要件等が就業規則に規定されていることから、労働契約の内容になっており、Yが受給資格を剥奪できるのは支給停止条項が労働契約の内容となっている場合に限られるとしたうえで、従前の制度について支給停止条項が存在し、従来と性格を同じくする新制度についても、支給停止条項が労働契約の内容となっているとし、Xの逮捕は雇用期間中の功績を抹消するに足りる不祥事であるから、年金受給資格の停止事由になるとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号の2
労働基準法11条
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 懲戒等の際の支給制限
裁判年月日 2000年1月28日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 9554 
裁判結果 棄却(確定)
出典 労働判例786号41頁/労経速報1732号19頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-退職金-懲戒等の際の支給制限〕
 新年金は、退職金制度とは別個の制度として導入されており、沿革は古く、労働者の無拠出によるものであり、恩恵的な制度として設けられた側面は否定できないが、勤続年数によって支給期間、金額が増減することはこれが年功報償としての性格を有するものということができる。そして、この制度は就業規則に明文化され、労働契約の内容となっているもので、新年金受給権はこれに基づいて発生する権利であるから、これが恩恵的な側面を有するからといって、支給者において、根拠なくその受給資格を剥奪できるものではない。すなわち、受給資格を剥奪できるのは、支給停止条項が労働契約の内容となっている場合に限られるというべきである。ただ、労働契約の内容については、就業規則の合理的な解釈、労使の慣行など総合的に検討して判断されるべきものであるから、形式的な文言だけから結論が出るものではない。〔中略〕
〔賃金-退職金-懲戒等の際の支給制限〕
 新年金制度は金額、支給期間等に変更はあるものの、制度そのものの性格は、新年金となることによって定年給から変更になったとはいえない。そうであれば、定年給における支給停止条項を新年金において排除しなければならない理由はないし、被告は、新年金制度においても、受給者に不都合な行為があった場合は支給を停止できるとの考えで、本件以外にも、同様の取扱いをしたことがあり(〈証拠略〉)、労働者にとっても、定年給と新年金とで異なる扱いを受けることの期待があったともいえない。新年金は、退職に伴い発生する権利であり、この点では退職金に類似するが、退職金については、懲戒解雇事由があるときはこれを支給しないものとされており、新年金について、懲戒解雇事由があるときでもその支給を停止されないとの期待を持つ合理性はない。してみれば、新年金制度の導入によって、定年退職者の定年給について、一定の場合に支給が停止されるとの労働契約の内容が変更になったとはいえないのであって、定年給と性格が同じである新年金についても、一定の場合に支給が停止されることは労働契約の内容になっているものというべきである。
 以上によれば、被告は、年金受給者にその雇用期間中の功績を無にするほどの不祥事があった場合には、年金の支給を停止できるというべきである。
 三 原告が、原告が覚せい剤取締法違反の現行犯で逮捕されたこと、これが被告の社会的信用、名誉を傷つけたことは当事者間に争いがない。原告が被告の新聞記者として立場(ママ)にあったこと、被告が新聞社という立場から、覚せい剤の害悪を報道し、これに関する犯罪を糾弾してきたことにを(ママ)考慮すれば、原告の行為によって生じた被告の社会的信用の低下は著しいものがあるといえ、これは原告の雇用期間中の功績を抹消するに足りる不祥事であって、年金受給資格の停止事由となるというべきであり、その受給資格取り消しの意思表示についてこれを無効とする理由はない。