全 情 報

ID番号 07504
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 東京魚商業協同組合葛西支部・淀橋支部事件
争点
事案概要  町の鮮魚商を主体として構成し、組合員の取り扱う水産物の共同保管等を事業目的とする協同組合Yとの間で雇用契約を締結し、Yらが東京都から都内の中央卸売市場内に無償で借り受けていた買荷保管所の保管員として勤務し、魚市場労働組合の執行委員長でもあったXが、二二回にわたる労働組合とYとの団体交渉において賃上げを要求するとともに、自らの賃金を維持するために買荷保管所(茶屋)の経営権を任せてもらう目的で団体交渉に参加していたところ、Yは利用客の減少等の状況下においてXらを雇用するのは存続が危ういという認識に基づいて、Xに対し解雇の意思表示をしたことから、右解雇は解雇権の濫用、不当労働行為に当たり無効であるとして、雇用契約上の地位確認及び未払賃金等の支払を請求したケース(なお、雇用契約締結時に解雇事由についての合意をしておらず、また就業規則にも解雇事由が定められていなかった)で、本件解雇時にただちにXを解雇すべきYの支部の財政がひっ迫していたとは認められないものの、XはYらが組合に経営権を任せるように仕向けるために団体交渉を重ねていたと考えられ、支部員や利用客の減少が続くなかでXを雇用したままではYの存続が危ういと認識して解雇したことも許されるとして、本件解雇においてはXに解雇に値するような行為や落度は何もないという前提そのものが欠けているのであって、解雇権の濫用とは認められないとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
労働組合法7条1号
労働組合法7条2号
民法627条1項
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 違法争議行為・組合活動
解雇(民事) / 解雇の自由
裁判年月日 2000年1月31日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ワ) 26867 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例793号78頁/労経速報1750号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇の自由〕
 本件全証拠に照らしても、被告らが原告を雇用するに当たって原告を解雇すべき事由について合意したことや被告らが就業規則を定めていてそこに解雇すべき事由を定めていることは認められないのであるから、解雇は本来自由になし得るものであることに照らし、被告らは単に解雇の意思表示をしたことを主張立証すれば足り、解雇権の濫用を基礎づける事実については原告がこれを主張立証すべきことになる。
 ところで、本件においては被告らが本件解雇は整理解雇であると主張しており、原告はこれを争っているが、右に述べたことからすれば、被告らは解雇の意思表示をしたことを主張立証すれば足り、解雇の理由について主張立証する必要はなく、かえって原告において解雇権の濫用を基礎づける事実として解雇が理由らしい理由もないのにされたこと、すなわち、本件に即して言えば、原告には解雇に値するような行為や落ち度は何もないことを前提に被告らの経済的事情に照らしても原告を解雇する必要性はなかったことなどを主張立証する必要があるというべきである。
 したがって、以下においては、右に述べた観点から、本件解雇に当たって原告には解雇に値するような行為や落ち度は何もなかったことを前提に被告らの経済的事情に照らしても原告を解雇する必要性はなかったことなどが認められるかどうかについて検討する。
〔解雇-解雇事由-違法争議行為・組合活動〕
 被告らが本件解雇当時に右に述べた事情を正確に認識していたとすれば、被告らの支部員や利用客の減少が続くという状況の下においては原告を雇用したままでは被告らの存続が危ういという認識と相まって、原告をこれ以上雇用し続けることはできないとして原告を解雇するという選択に傾くことは明らかであって、仮に被告らがそのような考えに基づいて原告を解雇したとしても、それは無理からぬことというべきであり、そのような理由による解雇は許されるものというべきである。
 そして、被告らは当審において原告が87部の茶屋の経営権を奪う目的で団体交渉を重ねていたと主張しており、この主張に係る事情を本件解雇が解雇権の濫用には当たらないことを補強する趣旨で主張しているのであるから、結局のところ、被告らは当審において原告が被告らが本件組合に87部の茶屋の経営を任せるように仕向けるために前記のとおり団体交渉を重ねていたことも解雇の理由として挙げているというべきであり、本件解雇がいわゆる普通解雇である以上、本件解雇当時に客観的に存した解雇理由を追加して解雇の適法性を基礎づけることは許されるのであって、しかも、前記のとおりその立証は一応されているものというべきである。
 そうすると、本件においては本件解雇に当たって原告には解雇に値するような行為や落ち度は何もないという前提そのものが欠けているのであって、被告らの経済的事情に照らしても原告を解雇する必要性はなかったことなどが認められるかどうかについて判断するまでもなく、本件解雇が理由らしい理由もないのにされたものであるということができないことは明らかである。
 (三) 以上によれば、本件解雇が権利の濫用として無効であるということはできない。