全 情 報

ID番号 07508
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 シーエーアイ事件
争点
事案概要  六二〇万円の年俸制(月額三六万五千円)、裁量労働制による勤務形態でソフトウェアの研究開発業務に従事していた労働者X(既に退職)が、会社の急速な財政状態の悪化に伴う就業規則・賃金規則の改定(拘束時間つきの裁量労働制及び月報制)によって賃金が大幅に減額した(月額一六万五千円)ことから、(1)未払賃金及び(2)賞与の支払、(3)債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償等を請求したケースで、(1)については、Xと会社は期間を一年とする本件雇用契約により、旧賃金規定の支給基準に関わらず、年俸額及び月額賃金について確定額で合意しているのであり、このような合意が存在している以上、賃金規則の変更により契約期間の途中で賃金月額を一方的に引き下げることは改定内容の合理性の有無に拘わらず認められないとして、未払賃金請求が一部認容され、(2)については、雇用契約に賞与の分割比率についての特段の合意がないため、契約期間中の勤務日数によって按分した額のみについて賞与の支払請求が一部認容され、(3)については、賃金規則の変更の必要性、内容の相当性を認定し、合意された賃金額を引き下げることは許されないが、新賃金規則の適用に応じることを求めること自体に違法性はないとして、損害賠償請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法24条1項
労働基準法89条1項2号
労働基準法93条
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
就業規則(民事) / 就業規則と適用事業・適用労働者
就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 賃金・賞与
賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 年俸制
裁判年月日 2000年2月8日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 3392 
裁判結果 一部認容、一部棄却(確定)
出典 労働判例787号58頁
審級関係
評釈論文 小西國友・ジュリスト1215号188~191頁2002年1月1日
判決理由 〔就業規則-就業規則と適用事業・適用労働者〕
 本件において、原告が新就業規則及び新賃金規則の適用を受ける社員に当たるかどうかについてみるに、前記認定のとおり、原告は本件雇用契約締結に際し旧就業規則を遵守する旨の誓約書を被告会社に提出しており、旧就業規則の規定上も会社の業務に従う者すべてに旧就業規則が適用される旨規定していることから、原告は旧就業規則の適用を受ける社員に該当するというべきである。これに対し、新就業規則は、その適用対象たる社員の定義として、期間の定めのない労働契約を被告会社と締結した者をいうとしているのに対し、原告が被告会社と締結した本件雇用契約は期間一年のものであるが、被告会社には新就業規則以外に期間の定めのある雇用契約を締結した従業員に適用される就業規則は別に存在しないこと、また、新就業規則は旧就業規則の就業形態及び賃金体系に関する定めを改定する趣旨で規定されたものであるのに過ぎないこと等の各事実に照らせば、本件雇用契約が期間一年の雇用契約とされているとしても、原告は新就業規則及び新賃金規則の適用対象である社員に該当すると認めるのが相当であるといえる。
〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-賃金・賞与〕
 前記認定のとおり新賃金規則の適用により被告会社の従業員のうちで賃金額が減少した者と増額した者とがあるが、賃金減額を生じうる変更である以上、新賃金規則への変更は就業規則の不利益変更に該当するものと認められ、このように就業規則の改定によって労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは原則として許されないが、当該条項が合理的なものである限りこれに同意しない労働者もその適用を拒むことはできないというべきである。
〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・賃金の減額〕
 本件においては、原告と被告会社は期間を一年とする本件雇用契約により、旧賃金規定の支給基準等にかかわらず、支払賃金額は月額三六万五〇〇〇円、年俸額六二〇万円の確定額として合意をしているのであり、このような年俸額及び賃金月額についての合意が存在している以上、被告会社が賃金規則を変更したとして合意された賃金月額を契約期間の途中で一方的に引き下げることは、改定内容の合理性の有無にかかわらず許されないものといわざるを得ない。
 したがって、原告は被告会社に対し、平成九年八月分の未払賃金二〇万円の支払請求権を有するものと認められる。
〔賃金-賃金請求権の発生-年俸制〕
 本件雇用契約は、年俸額を六二〇万円と合意した内容のもので、「年俸」の文言は一年間に支給される賃金額をいうものと解すべきであるから、本件雇用契約の合意内容は年俸額の一七分の一二を月当たりの賃金として支払い、残りの五か月分については、賞与二回分合計の最低保障として確定的に支給する旨を合意したものと解するのが相当である。
 ただし、本件雇用契約の文言上は六月賞与として二・五か月分の支給をするとの記載はなく右内容の合意がされた事実を認めるに足りる証拠はないものの、年俸額が確定額で定められ、賞与として五か月分を二回に分けて支給するがその計算方法に特段の合意がない場合に契約期間途中で退職した原告の賞与請求権については、少なくとも契約期間中勤務した日数により按分した額の具体的支払請求権を有すると認めるのが相当というべきである(大阪地方裁判所平成一〇年七月二九日判決・労働判例七四九号二六頁参照)。