全 情 報

ID番号 07523
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 藍野学院事件
争点
事案概要  短大、福祉専門学校等を設置している学校法人Yに雇用され、短大図書館付で就労していた(これ以前も同法人設置の専門学校、短大等で就労)労働者Xが、YからなされたY代表者が理事長を努める医療法人Bが設置する病院への第一次転籍出向命令を拒否し、その後、Xがなした仮処分申立て中に、右出向命令が撤回されたが、再度発せられた右病院への第二次在籍出向命令を拒否したため、第二次出向命令及び出向先への就労拒否を理由に、就業規則(勤務成績が著しく劣悪又は性行が勤務に適格でなく改善の見込みがない場合には解雇する旨の規定)に基づいて解雇の意思表示がされ、予告手当が振込送金されたため、本件解雇は無効であるとして、(1)出向命令従前の地位にあることの確認請求及び賃金支払、(2)不法行為責任に基づく慰謝料の支払、(3)未払賞与の支払を請求したケースで、(1)については、就業規則の規定の内容は出向命令権の根拠とはいえないこと、また出向に関してXが包括的同意をしていたとはいえず、出向が労使慣行となっているわけではないことから、出向命令拒否を理由とする解雇は無効として、請求が認容されたが、(2)及び(3)については請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
民法625条1項
労働基準法11条
労働基準法89条1項2号
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 業務命令違反
配転・出向・転籍・派遣 / 出向命令権の根拠
賃金(民事) / 賞与・ボーナス・一時金 / 賞与請求権
裁判年月日 2000年3月10日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 1071 
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労経速報1752号9頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-出向命令権の根拠〕
 被告は、出向命令の根拠として、就業規則(書証略)第六条一項をあげるが、右規定には出向を命じることができるとの文言はない。被告は、右規定がAグループ内の配置転換を規定したものというが、文理上はそのように読めず、被告とBとは同じ企業グループで、かつ医療関係とはいいながら、一方は学校であり、他方は病院であって、その業種には著しい隔たりがあることを考慮すれば、右規定は、被告内部における配置転換を規定したものというほかない。被告が主張するその他の規定については、出向、転籍を前提としたものもあるが、これらは出向や転籍がされた場合の処理を定めたもので、出向、転籍には承諾を得てされる場合もあるから、これらをもって承諾なく出向を命じうる出向命令権の根拠となるということはできない。
 3 被告代表者は、原告を採用する際の面接において、原告が出向を包括的に承諾したと述べる。しかしながら、右面接は、一五年も前の事柄であって、被告代表者の供述自体具体的には必ずしも明確でなく、原告本人の述べるところとは大きく食い違い、客観的にこれを裏付けるものはないのであって、被告代表者の供述によって右包括的同意がされたとの事実を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
〔解雇-解雇事由-業務命令違反〕
 以上によれば、原告に対する第一次及び第二次出向命令はいずれも根拠を有しないものといわなければならない。そこで、第二次出向命令を拒否したことを理由としてなされた本件解雇もまた無効といわなければならない。
〔賃金-賞与・ボーナス・一時金-賞与請求権〕
 被告の給与規定第三六条は、「賞与は、学院の経営状況、社会状況等を勘案して、職員の勤務成績、出勤率等に応じ、第三七条の計算対象期間に勤務し支給日に在籍する職員に対して、夏期及び冬期に支給する。但し、学院の経営が不振で賞与の支給が困難な場合はその支給を行わないことがある」と規定する。原告が過去に賞与の支給を受けていたことは争いないが、その支給額の計算根拠が不明であり、また、平成一一年以降、被告において、学院の経営状況、社会状況等を勘案して、他の従業員を含め、どのように賞与の支給がされたか不明であり、原告の勤務成績についての査定も必ずしも明らかでない。さらに、将来の賞与の額については、一層不確定要素が大きいといえる。そうすると、原告が過去に、夏期は四〇万円、冬期は六〇万円の賞与の支給を受けていたからといって、必ずしも平成一一年以降も同額の支給を受けるとはいえない。そうであれば、これを前提に、平成一一年以降の賞与の支給を求める部分は理由がないというべきである。