全 情 報

ID番号 07537
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 東京海上損害調査(懲戒解雇)事件
争点
事案概要  保険会社Aの子会社で、Aが発注する自動車等保険事故の損害額見積、状況調査等を業とする会社Yで、自動車事故の原因調査等を行うアジャスターとして二二年間勤務していた従業員Xが、Aの検査部によるYの調査業務等の抽出調査実施時に、Xの車両経費請求書記載の走行距離に不審な点が判明したため事情聴取を受け、その際には虚偽説明したことを認める旨の始末書を提出し、その後、別の社員が経費請求等を不正取得して懲戒解雇されたのを機に実施されたアジャスター業務遂行状況の抽出調査実施時に、(1)三件の面談調査料の不正取得、(2)通勤交通費の過剰請求、(3)自動車修理業者に虚偽の明細書を作成させたことが確認されたため事情聴取を受け、その際には通勤交通費の件についてのみ事実を認め、事情聴取後にその他の件について事実を認める確認書を提出したが、(1)~(3)及び(4)Yに対し、(2)(3)について虚偽の説明を繰り返したことが就業規則の懲戒規定に該当するとして、懲戒解雇の意思表示がなされたため、本件解雇は解雇権濫用で無効であるとして、労働契約上の地位確認及び賃金支払を請求したケースで、(1)~(4)はいずれも就業規則規定の懲戒自由に該当するとし、調査報告書の正確性がY存立根幹に関わるほど重要であることから、不正取得に関しては懲戒解雇という厳しい対応にも相当性があること、(1)(3)は特に大きな非難に値するものであること等を総合考慮して、YがXに対し本件解雇を選択したこともやむを得ない措置であったというべきであり、本件解雇に裁量権を逸脱した違法があるとは認められないとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為
懲戒・懲戒解雇 / 二重処分
裁判年月日 2000年3月31日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 7163 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例788号49頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕
 前記認定事実によれば、被告が本件解雇の解雇事由として主張する事実はいずれもこれを認めることができる(ただし、原告の車両経費、燃料代の不正取得額については、通勤復路分も過剰請求の算定に含めている点で被告主張額より低額となる余地があるし、契約者Bの件に関しては、真実は原告が何ら保険切替交渉をすることなく、面談手数料を請求した可能性がある。)。
 また、右解雇事由に該当する事実は、懲戒事由を定めた就業規則四四条四号、八号、一一号、一二号に該当すると認められる。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕
 被告は、A会社から受注した保険事故の調査等を行うことを業としているのであるが、その調査結果は、A会社が支払う保険金の認定の際の資料、これに関する相手方との交渉や訴訟の資料として使用されるものであり、これに誤りがあれば、被告が信用を喪失するのみならず、発注元であるA会社にも信用喪失、保険金過払等の不利益をも及ぼすことにもなりかねないのであって、調査結果の適正と正確性は被告存立の根幹に関わることといって過言ではない。そのような調査は、被告ではアジャスターに委ねられており、各アジャスターが調査結果を調査報告書に作成して報告することとされているから、アジャスターが作成する調査報告書には高い適正と正確性が求められることになる。そして、調査結果の適正及び正確性は、調査方法のいかんに関わる部分が少なくなく、アジャスターがいかなる調査方法を用いて情報収集を行ったかは、調査結果の精度を判断する上で極めて重要な要素というべきである。
 被告は、このような観点から、調査報告書の不実記載とこれによる調査料の不正取得という不祥事に対しては、その不正取得額の多寡にかかわらず懲戒解雇という厳しい対処をしてきた旨主張するのであるが、調査報告書の正確性が被告の業務において有している重要性からすると、右のような被告の対応は相当としてこれを是認することができる。
 本件解雇における解雇事由には、それのみであったなら懲戒解雇を相当と認めるに逡巡される虚偽説明や通勤交通費の不正請求が含まれてはいるが、その主眼は、原告が、電話で事情聴取したに過ぎない調査に関して面談調査した旨記載した調査報告書を作成し、これに関する調査料の不正取得をしたという点にあることは明らかであるし、また、原告が、自らの虚偽説明を取り繕おうとして、将来被告の取引先ともなりうる自動車修理業者をして虚偽の整備明細請求書を作成させ、これを被告に提出したことも、被告の信用を毀損し、背信性の強いものとして大きな非難に値するものと考えられる。
 これらを総合考慮すると、被告が、原告に対し本件解雇を選択したこともやむを得ない措置であったというべきであり、本件解雇に裁量権を逸脱した違法があるとは認められず、よって、本件解雇は相当というべきである。
〔懲戒・懲戒解雇-二重処分〕
 原告は、平成一〇年五月七日に本件始末書を提出したことで処分済みであると主張するところ、就業規則四五条には、懲戒として、譴責等の場合には始末書を提出させることとなっているから、原告がこれを懲戒と受け止めたということも全く考えられないことではない。
 しかしながら、被告としては、これを懲戒処分として行ったものではないというのであり、原告の陳述書等にも、譴責処分として始末書の提出を求められた等の事情は全く記載されておらず、本件始末書提出を真に原告が懲戒処分として受け止めていたかははなはだ疑問というべきであるし、本件始末書には岡山に行ったと虚偽説明したことのみについての謝罪等しか記載されておらず、仮にこれが譴責処分に当たるとしても、解雇事由の全貌(特に調査料の不正取得や内容虚偽の整備明細請求書を作成させたこと)が明らかになったのは、前記認定のとおり、その後のことであるから、本件解雇については、その一部に重複があるというに過ぎないことになるだけであって、そのために本件解雇が無効になるとは解されない。