全 情 報

ID番号 07551
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 大阪観光バス(懲戒解雇)事件
争点
事案概要  観光バス会社Yの社員でバス運転手X(労働組合の書記長)が、(1)Yの取引先である旅行会社Aの多数の添乗員に不愉快な思いをさせる振る舞いをしたとして苦情が多数寄せられたことがあり、更に(2)Yのバス添乗業務に従事する入社間もないトラベルコンパニオンBに対して、勤務時間中に身体を触り、勤務終了後にも執拗に食事に誘い、断りきれなかったBに抱きついたり、ホテルに誘うなどの猥褻行為を行ったことがあり、また(3)出勤時刻に遅刻しそうになりYへの連絡なしに他の従業員に代りにバスの運行移動を依頼をしたことがあり、(4)Bへの非違行為について運行部長Dから事情聴取を受けた際には、「ビラをまいたろか」等の反論をして事情聴取に応じなかったことから、右各行為が就業規則の懲戒解雇事由(風紀濫用等により職場の規律を乱したとき、許可なく、会社の車輌を他人に運転させ、又は貸与したとき)に該当するとして懲戒解雇の意思表示がなされたため、本件解雇は合理的な理由がなく無効であるとして、労働契約上の地位の確認及び賃金支払を請求したケースで、(1)から(4)の行為はいずれも就業規則の懲戒解雇事由に該当し、Yでは男女関係が社撰の非難を回避すべく社内での男女関係に厳しい対応をしてきており、Xは以前にも女性関係の問題でYから注意を受けていたにもかかわらず、(1)及び(2)の行為に及び、(1)から(3)に関する注意等に反抗的で責任回避のための脅迫にまで及んでいること等から、本件解雇はやむを得ない選択というほかなく、相当として是認することができるとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / セクシャル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 風紀紊乱
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 信用失墜
裁判年月日 2000年4月28日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 11964 
裁判結果 一部却下,一部棄却(確定)
出典 労働判例789号15頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-均等待遇-セクシャル・ハラスメント〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-風紀紊乱〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-信用失墜〕
 右認定事実によって判断するに、具体的内容は不明であるものの、原告が性的なことがらに関し取引先であるA会社の多数の添乗員に不愉快な思いをさせる振る舞いをして苦情を寄せられるという事態を招いたことは、就業規則八八条八項に該当するというべきであるB、被告の信用を落とす行為でもある。
 また、Bに対するわいせつ行為も、まことに悪質な行為であって社会人として許されるものでない。そして、その一部は勤務中のことであったし、また、勤務終了後の行為についても、古参の運転手という立場で入社間もないBにしつこく迫って誘い出すなどしているのであるから、これらが同規則八八条八項に該当することは明白である。
 さらに、遅刻しそうになってCにバスの移動を依頼し、その結果Cが原告の乗務予定のバスを移動させようとした行為は、同規則八八条八項及び二〇項に該当する。
 そして、Bに対する非違行為について事情聴取を受けた際、反論して事情聴取に応じなかった点について、原告は、その外形的事実を概ね認めながらも種々弁解している。しかしながら、仮に原告が真実、Dのセクハラ発言を他の従業員から聞き及んでいたとしても、その場は、原告の非違行為について上司であるDから事実確認のための事情聴取を受けているのであるから、Dのセクハラ発言を持ち出したりすることは、責任追及の回避であり、問題のすり替えというべきであって許されることではない。「ビラまいたろか」との発言も、原告は事実無根の非難に対する売り言葉、買い言葉であったなどと主張するが、前記のとおりBに対する非違行為が事実無根の中傷とは認められず、結局、右発言は、自己に対する追及をかわすため、組合役員の立場を利用し、組合の威力を背景にしてなされた脅迫以外のなにものでもないというべきである。よって、これらの言動も就業規則八八条八項に該当する。
 そして、被告では男女関係が杜撰との非難を回避すべく社内での男女関係には厳しい対応をしてきており、原告は以前にも女性関係の問題で被告から注意を受けていたにもかかわらず、右のとおり、A会社からの女性関係の苦情を招いたり、Bへの悪質なわいせつ行為に及んだりしていること、乗務に遅刻しそうになるという自らの非を勝手な運転手の手配によって取り繕おうとしたばかりか、これらに関し、注意や事情聴取を受けても反抗的な言動をし、あまつさえ、責任回避のための脅迫にまで及んでいること等専恣な行為を累積させてきているのであって、反省の態度はみられず、その情状は重いというべきである。
 これらの事情を総合考慮すると、本件解雇はやむを得ない選択というほかなく、相当としてこれを是認することができる。
 原告は、本件解雇の背景として労使関係の悪化があり、本件解雇は報復措置の疑いがあるなどとも主張するが、右のとおりの本件解雇を相当とする非違行為が認められる以上、原告主張の事情があるからといって、本件解雇の効力に消長をきたすものではないというべきである。